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…━━━━もうすぐクリスマスがやってくる…。 …街中が恋とプレゼントの話題で騒がしい。 ところで…「手編みのマフラーとかセーターとか…貰うと結構困るよね…」なんて言う輩を希に見掛ける昨今…… 実を言うと俺は、そういったプレゼントに僅かながらも、密かに憧れを抱いていたりするのだった━━━━━… 【凉宮ハルヒの編物@コーヒーふたつ】 吐息も凍る様な、寒空の朝… 俺は、相も変わらずいつもの公園でハルヒを待っていた。 つい先程まで、自転車を走らせる事により体温を気温と反比例させる事が出来ていた俺だが、公園に辿り着いてから暫くの間に指先は痺れる様な寒さを感じ始めていた。 (まったく…こんな日に限って待たせる…) 大体…ハルヒの奴はいつもそうだ。 来て欲しい時に来なくて、来て欲しくない時に限って現れる… 「まったく…俺に何か恨みでもあるのか…」 「ん?何か言ったかしら?」 「…………へ?……うおっ!?!」 気付かぬうちに側に居たハルヒに、俺は思わず驚きの声をあげる。 そして…その驚きの声を辛うじて挨拶に差し変えた。 「お…おおはよう!だな…」 「うん、おはよう。…何慌ててんのよ?…………まあ、良いわ。あのさ…これ、前のカゴに入れてって?」 「あ?ああ…」 ハルヒが差し出したのは、見覚えがあるデパートのロゴの入った紙製の手提げ袋だった。 その半開きになった口の中には、いくつかの青い毛糸と…編み針?…そして、編みかけの『何か』が見える…。 「ハルヒ?これ…」 「ああ、マフラー…もう少しで完成なのよ!だから、学校で仕上げちゃおうと思って…」 「ああ、そうか…」 気の無い返事をして見せたものの… 俺は今…… 猛烈に感動していたっ!! だって、そうだろ!? このハルヒに限って『手編み』など絶対に有り得ないと思っていたが、今まさに…その『手編み』のマフラーを制作中なのだ! しかも、この場合のプレゼントの相手は禍いなりにも『彼氏』であるこの俺だろう! この世に生を受けて十余年… 遂に俺の首に手編みのマフラーが巻かれようとしているっ! ところで…コレはクリスマスプレゼントなのか? だとしたら少し気が早い気もするが、セッカチなハルヒなら十分ありえる話だ…。 俺は逸る気持を押さえきれずに、自転車の後ろにハルヒを乗せると力一杯ペダルを踏み始めた。 「ち…ちょっとキョン!何、急いでんのよ?」 「ん?急いでなんかないさ!それより、いつもの販売機に寄るだろ…?」 「え?…まあ、寄るけど…」 「奢ってやるよ!」 「はあ?」 「だから、奢ってやるって!」 「…うん。…………(キョンが元気いっぱいだと、微妙な気分になるのは何故かしら)…」 「ん?何か言ったか?」 「べ…別に何も言ってないわよっ!」 やがて、いつもの販売機にハルヒを乗せて到着した俺は、自転車から降りる瞬間にハルヒに気付かれない様、そっとカゴの中の袋に目をやった。 先程の通りに半開きになった口から、編みかけのマフラーが見える。 俺は、思わずニヤケそうになるのを必死に堪えながら販売機に向かうと、コーヒーとカフェオレを買いカフェオレをハルヒに手渡した。 「ほら…飲めよ」 「あ、ありがと…」 「大変だったろ?」 「え?何がよ」 「編みモノ」 「…うん。まあね…」 「そうか…」 大変だったんだろうな……だが! だからこそ手編みは良いのだ! その『大変』な作業により編み込む想いの数々…これこそが手編みの醍醐味だ…! 俺はコーヒーを一気に飲み干すと、ハルヒを自転車に乗せ、再び全力でペダルを踏み始めた。 学校に着いて…授業が始まっても、俺の意識は黒板へと向く事は無かった。 (今、この時も…おそらくハルヒは俺の為に一生懸命にマフラーを編んでいる…) 考えただけで、顔の筋肉が弛緩む。 そして、振り返って様子を伺ってやりたくなる…が、今は止めておく。 楽しみは後回しにしたほうが喜びが大きいからな。 (さて、今のうちにマフラーを受け取った時に言う言葉でも考えておこうか…) 俺は、ハルヒがどんな顔をしてマフラーを俺に手渡すのか考えてみた。 そして…やっぱりハルヒの顔が少しだけ見たくなって、気付かれない様にそっと振り返えった。 伏し目がちに手元を見つめながら、忙しく編み針を動かすハルヒが見える… もうそれだけで俺は、胸の中にジンワリとこみあげて来るモノを感じていた。 様子から察するに、おそらく完成は放課後くらいだろうか…。 長い一日になりそうだ。 昼休みになっても、ハルヒの手は止まる事は無かった。 俺は何か労いの言葉でも…と考えながらも、(やっぱり、そういうのは後にとっておこう)と思い直して、ただ振り返ってハルヒを見つめるだけにする。 そんな俺の様子に気付いたハルヒが、手元と目線はそのままに俺に語りかけてきた。 「なあに、キョン…どうしたのよ…」 「えっ…ああ、いや…その…毛糸の色、良いな」 俺は上手い言葉が思い付かずに、適当に見つけた言葉を返した。 ハルヒは、そのまま話を続ける。 「そう。この毛糸を見付けた時ね?この色は絶対にアタシに似合うって思ったのよ。 丁度…良さそうなマフラーが売って無くて、がっかりしてた時だったから…すぐに自分で作る事を決めたわ!」 (何……と?) 「あら、キョン?どうしたの?固まっちゃって…」 「……………いや、何でも………無い」 …やっぱり…ハルヒはハルヒだった…。 俺は、今朝からの浮かれまくった自分を思いだし、激しく自己嫌悪に陥りながらも姿勢を元に正しながら冷静に考えてみる。 (そういえば、ハルヒの得意なセリフの一つに「無ければ自分で作ればいいのよっ!」ってのがあったな…) おそらく今回も…街へマフラーを買いに行ったものの、気に入ったものを見付けられずに結局自分で作る事を思い付いたんだろう。 (なんてことだ…まったく…俺ときたら…) やがて…授業が始まっても、俺の意識は黒板へと向く事は無かった。 今朝からの激しい期待感を失った事に因る倦怠感が全身を漂っている…。 ああ…長い一日になりそうだ…。 そして…放課後… 部室に行くと、既にそこには古泉と朝比奈さん…そして長門に…ハルヒも居た。 「あら…古泉君。素敵なマグカップですねぇ…」 朝比奈さんが、古泉の持ってきたと思われるマグカップを、何やら羨ましげに眺めている。 そして、毎度お馴染のニヤケ面で古泉がそれに応えている…。 (ふん、たいしたマグカップじゃ無いじゃないか…) 俺は意味もなく腹立たしくなり、二人の前を軽く挨拶をしてすり抜けると、ストーブの近くの椅子に腰を下ろした。 ハルヒは教室より引き続き、忙しく編み物に興じている。 そして俺の存在に気付くと、先程と同じく手元と視線はそのままに「見てなさい?もう少しで完成するわよっ」と得意気な口調で話しかけてきた。 俺は「ああ…そうか」とそっけない返事をしながら、ストーブに両手をかざす。 そんな俺とハルヒの様子に気が付いた古泉が、ハルヒの方に視線を送りながら「キョン君のですか?羨ましいですね?」とでも言わんばかりに俺に微笑みかけてきた。 俺は「違う違うっ」と手を鼻先で二三度振ると、古泉が「それは残念」と両掌を天井に向けるのを待って、ポケットから携帯を取り出して開いた。 とりあえず…授業中に来ていた分のメールを確認しようとディスプレイを見るが…なんだか面倒だ……そしてダルい…。 俺は何もしないまま、携帯を閉じると机に上体を伏せた。 ふと気が付くと、視界に本を読む長門が映る…。 (ああ…こいつは、こんなダルさとは生涯無縁なんだろうな…) やがて、俺は足元に当たるストーブの暖かな感触に眠気を覚え…そっと目を閉じた。 「…ョン…」 「ん…?」 「…キョン……」 「なん…だ…?」 「起きなさいよっ!バカキョンっ!」 ハルヒの怒鳴り声に慌てて体を起こすと、既に部室の中にはハルヒ以外に誰も居なくなっていた。 「あれ?みんなは…どうした?」 「とっくに帰ったわよ!……それより…ねえ、見て?遂に完成したわよ!素晴らしい出来栄えだと思わない?」 「ああ…まあな…」 「いっその事…もういくつか作って、アタシのブランドでも立ち上げてネットで売り捌いてやろうかしらっ?」 ハルヒは、出来上がったばかりのマフラーを俺に見せながら満面の笑みを浮かべていた。 (手編みは貰い損ねちまったが…まあ、いいか…) 俺は「良かったな」とハルヒに軽く微笑みかけると、立ち上がって帰り支度を始めた。 ハルヒは既に支度を終らせていた様子で、コートをはおり手袋も着けている。 そして…俺がコートを着終わるのを見計らって、出来上がったばかりのマフラーを首に巻き始めた。 (確かに…ハルヒに似合う色だ………あれっ?) ハルヒがマフラーを首に巻き始めたその時…俺は、ある事に気が着いた。 ハルヒの作り出したマフラーは………恐ろしく長い…! 戸惑う俺をよそに、ハルヒは手早くマフラーを巻くと、俺に余った長い部分を差し出した。 「…はい、キョン」 「ん?な、なんだっ?」 「アンタの分よ……」 そう言いながら、ハルヒの顔がみるみるうちに赤くなってゆく…… そして…とりあえず言う通りに、余った分を首に巻いた俺を見て「ふふっ、暖かい?」と照れた様に笑った。 「暖かいが……物凄く恥ずかしい……」 「ええっ?何よ!この場合『恥ずかしい』じゃなくて『嬉しい』じゃないのっ?」 俺達は暗くなり始めた部室棟の廊下を、二人三脚の様にぎこちなく歩く…。 しかし…全くハルヒの奴ときたら、とんでもない事を思い付くものだ。 こんなところを誰かに見られたらと思うと、恥ずかしくてしょうがない……… ただ…マフラーからハルヒの匂いがして、少し幸せだったりするが… 「こらっ!もっと嬉しそうにしなさいよっ!…えいっ!」 「ぐあっ!ひ…引っ張るなっ、首が締まるっ!」 「あははっ!面白~いっ!…えいっ!」 「ぐあっ!し…洒落にならん…」 「…えいっ!」 「グァ……」 「…いっ!」 「…ァ」 「……」 「…」 「」 「なあ、ハルヒ…」 「なあに?」 「ありがとう…な」 おしまい
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教室につくと、すでにハルヒは自分の机に座っていた。 つまり三年でもハルヒとは同じクラスなのだ。さらに谷口も国木田も、阪中もいる。 おい、誰かこの必然の偶然を疑う奴はいないのか? 俺が机に座り、勉強道具を広げようとすると、ハルヒが歩いて俺に近付いてきた。 そう、驚くことにハルヒは俺の後ろにはいないのだ。いや本当は驚くことではないのだが。 両手を前に組んでハルヒは目を輝かせながら聞いてきた。 「キョン、どうよ!自信のほどは?」 どうやらご機嫌は良好のようだ。はて?今日は、俺が自信を持たなければ ならないようなイベントでもあったか?何だ?ツッコミ大会か? 「あんた…まさか忘れてるの? 今日はこの間あった模試の結果発表の日じゃない!」 なんと!俺としたことが。この情報を聞いて、俺の気分はさらにメランコリーだ。 …と見せかけて実は少し嬉しかったりする。 「いや、すまん。すっかり忘れてた。」 「はぁ~?あんたアレね。受験当日に受験票忘れて、 不合格になるタイプね。」 「頼むから、そんな縁起でもないこと言わないでくれよ。」 「ふん!それでどうなのよ!?」 「模試の日にも言ったろ。正直、自信ないな。 その証拠にさっきから俺は鬱々真っ盛りだ。」 これはうそだ。なんてったってこの間の模試は、自分でも驚くくらいスラスラ解けたからな。 C判定…いや、もしやB判定くらいいけるかもしれない。 「あんた…あたしがあれだけ分かりやすく、丁寧に対策立ててあげたのに… 自分だけじゃなくてあんたの面倒まで 見なきゃいけないのって正直な話…相当キツいのよ?」 ハルヒが半ばあきれたように言う。 ああ分かってるさ。ハルヒ。俺も悪いとは思ってるんだ。 だけど、そもそもお前と俺ではスペックに差がありすぎるんだ。 …といつもなら思ってる所だが、 今は俺の結果を見て驚くハルヒの顔が目に浮かぶ。 「そういうお前はどうなんだよ。」 「ふん!当然A判定よ!あんたとは頭の出来が違うの!」 やれやれ…そう思うなら俺を東大になんか誘わないでくれ。 「そいつは頼もしいな。お前の教え方は本当に分かりやすい。 これからも頼むぜ?」 これは俺の本音である。全く、無償でやってくれてるのが申し訳ないくらいだ。 まあその代わり最近は毎日のように、食堂で飯を奢らされてるのだが… そういうとハルヒは少し顔を赤くしながら 「あ、当たり前よ!あんたは一人じゃすぐさぼるんだから! とことん付き合ってやるわよ!」 と、より一層目を輝かせながら、いつもの調子でまくし立てた。 「いざとなったらあたしの力で、あんたを秀才のメガネくんに 改変してやるからね!覚悟しなさい!」 「いや、それは勘弁してくれ。俺は俺のままでいたい。 大体、お前はもうそんな力なんてないだろうが」 「冗談よ!ジョーダン!!」 そう、こいつは自分に力があること。いや、あったことか。 そのことをしっかり自覚しているのだ。 三年になって間もなく、ハルヒに今まで隠してきた事がバレてしまった。 案の定、こいつはまたいつぞやの閉鎖空間を作って、世界を丸ごと改変しようとしやがった。 俺はもちろん閉鎖空間に赴いて説得を試みたよ。 あの時のことは思い出すだけで頭をぶち抜きたくなる。 なんたって告白まがいのことを言ってのけたんだからな。 ああ、また思い出しちまった。誰か、俺に注射器をくれ。痛くない奴な。 しかし、そんなことをさせておきながらハルヒはいそいそと 改変しやがった。つまり、今はハルヒが改変したあとの世界なのだ。 どんな世界になってしまうのか震え上がった俺達だが、 実際に改変されたのはごく一部だけだった。 はい、じゃあここで改変の一つ目の内容。 それは長門を支配していた情報統合思念体を、消滅させてしまったことだ。 ハルヒにバラしてしまったことに対する処分として、長門を消そうとしたからな。 それが、ハルヒの逆鱗に触れたというわけだ。 つまり、今の長門は前のようなトンデモパワーを使えない、 ただの無口な女子高生になってしまったのである。 二つ目はハルヒ自身だ。こいつは、よりにもよって自分の世界改変の能力そのものを改変し、 自身を長門同様、普通の女子高生にしたのだ。まあ、俺の説得の賜物だろうな。 ハルヒ曰く「自分の思い通りにいく世界なんて気持ち悪いったらありゃしないわ!」 だそうだ。 これによって古泉も自動的に超能力の力を失い、普通の男子高校生になった。 朝比奈さんだけは未来的な力は取り上げられず、今は未来に帰ってしまっている。 まあ、改変したあとの世界に生きる俺達では、改変されたのが 本当にそれだけなのかは分からないがな…ずっと俺達を世界の外側から見てた お前ら読者には何が変わって、何が変わってないかは一目瞭然だろう… って誰に話してるんだ!俺は! というわけで、俺達SOS団は晴れて普通の人間達の集まりになったというわけである。 これが俺の後ろにハルヒがいない理由だ。 ふう、長くなったな。 ハルヒと色々話していると担任が入って来た。 これまた去年と同じ岡部だ 岡部もハルヒに選ばれた一人のようだ。よかったな、岡部よ。 岡部曰く、どうやら模試の結果は今日の帰りのHRにて返却されるようだ。無駄に生殺しだ。 それにしても最近、春日とよく目が合う。俺を意識してるようにも見える。 もしかして俺のことを…そうか、ならば俺はこの身をお前に捧げてやろう…… ってゲフン!ゲフン!何を考えてるんだ!俺は!俺にはハルヒが……って違う! あいつとは何もないんだ!あの時だって別に告白したわけじゃない! だって俺には一樹タンが………ってヴワアアアア! …いや、俺は決してあっちの趣味があるわけじゃないからな。 勉強のしすぎで参ってるだけなんだ。たまには壊れてもいいだろう。 そうやって俺が脳内で葛藤してる間も、春日は何度もこっちに目をやる。 その視線の意味も分からぬまま、今日も一日の授業が全て終った。 「何だ、こりゃ、何の冗談だよ」 今は、帰りのHRである。思わずひとり言をもらしてしまった。 偏差値50…当然東大はE判定である。それどころか、安全圏だと思ってた○○大学までもD判定だ。 あのな、自分で言うのもなんだが俺は三年になってからは、それこそ脳みそがバターに なるくらい、必死で勉強してきたつもりだ。それがどうだ。この結果は。 所詮俺の頭じゃ東大なんてちゃんちゃらおかしいっていうことか? ちっ、こんなことならもっと早く模試を受けておくべきだったぜ。 そうすりゃ、自分の限界に気付くのに、こんな時間をかけずにすんだのにな。 自虐的な考えが次から次へと溢れだしてくる。 ――あんたとは頭の出来が違うのよ!―― 朝のハルヒの言葉が先ほどとは違う形で頭の中に響いてきた。 先に走るように出ていったハルヒを追うように、おれも文芸部室にフラフラ歩み始めた。 俺が部室に入ると案の定ハルヒは、目を輝かせながら団長席に座っていた。 あと、長門もいるな。いつものように本に顔を落としている。 古泉はまだ来てないようだ 「キョン!早くあんたの結果を見せなさい!」 俺は一瞬顔をしかめて見せたが素直に、無言で用紙をハルヒに渡した。 そんな俺に、ハルヒも自分のそれを手渡してきた。ハルヒの結果はB判定… こいつは東大以外は志望してないから、これは東大の結果だ。 「A判定じゃないのはちょっと納得いかないけど…ま、 やっぱりあんたと私では頭の出来が違うってことね。」 ハルヒが、俺の用紙を見ながら言う。 その時からだろうな。俺の中で何かがフツフツと煮えたぎってきたのは。 まるで今までの自分の努力を全て否定された気分だ。 俺はハルヒを自分が出来る最大限に鋭い目で睨んだ。 「な、何よ、その目は…よし! これからは今まで以上にあんたに時間を費やしてあげる! まずは昨日作った、この問題を全部解くのよ!」 そういうと辞書一冊分くらいはあるような冊子をドン!と俺の前に突き出してきた。 何だこりゃ?反吐が出る。続けてハルヒは半ば焦ったようにどんどんまくし立てる。 「いい!?これさえやればあんたの偏差値も、うなぎ登りよ!」 黙れ… 「どうせあんたの偏差値なんかあんた同様に、 単純に出来ているに決まってるんだから!」 黙れと言っている… 「あ、そ、そうだ!有希!今日はもう帰って!?二人だけの方が勉強に集中出来るから! 古泉くんにも言っておいてね!?」 「黙れっっ!」 「キョ、キョン ?」 「うるさいんだよ!どうせ俺なんか東大に合格出来るはずないんだ! ああ、そうだよな!お前は教師でもなければ塾の先生でもないもんな! そんな普通の高校生のお前が!こんなバカな俺を東大に連れて行くことなんて出来るはずがないんだ! 何がうなぎ登りだ!バカにするのも大概にしろ!!」 そういうと俺はハルヒに重い冊子を投げ付けた。 何で俺がこんなに怒ってるかって?俺にもわからん しいて言うなら今までの勉強のストレスが一気に爆発したんだろうな。 と、こんなふうに冷静に自分を分析する俺は、今ここにはいない。 「え?あ、あたしはバカになんか…ただ… あんたと同じ大学に行きたかったから…」 ハルヒが冊子を受けてバランスを崩しながらボソボソと言う。 しかし俺はそんなこと意に介さず、 「俺はお前みたいに何でも一番になりたいと思ってるわけじゃない! 東大なんてどうでもいいんだよ!返せ!俺の時間を返せ!」 その言葉を聞いて、ハルヒは俯きかかった顔をがばっとあげる。 「なによ!あんたのためにやってあげたことじゃない! あたしがどれだけ必死になってあんたのために問題を作ったのか分かってるの!?」 それを聞いた瞬間俺の中で何かが爆発した。だから頼んじゃいねぇだろうが! ゆっくりとハルヒに近付いていく。 ハルヒの目がどんどん恐怖の感情に染められていくのが分かる。 「いや!来ないで!!!」 そうハルヒがいった瞬間俺はストレスを全てその拳に集中し ……………ハルヒに飛び掛かり…………そして殴った………… 「い!?たぁぁ…」 ハルヒは左に吹っ飛びながら呻いている。そんなハルヒに俺は第二撃目を浴びせようとしてる。 その時、俺の内出血した拳を誰かが掴んだ。……長門だ。 長門は黒い瞳でこちらを、ただじっと見つめている。 その目に吸い込まれるように俺の怒りの感情は消えていった。 「ありがとう、長門…」 そう言うと俺は部室を出て 、廊下を走っていた。途中古泉に声をかけられた気もしたがどうでもいい。 何故だ!?何故俺はハルヒを殴った!?勉強のストレスのせいで?ふざけるなよ! ハルヒはただ、俺のために手伝ってくれただけだったのに! 自分の勉強時間まで裂いて!あいつは、俺以上に大変だったはずなんだ! 最低だ!俺は………最低だ……… 拳がとてつもなく痛い。一体どれだけ強く殴りやがったんだ。俺は… いつの間にか俺は下駄箱まで来ていた。ふふ…今だったら 受験苦で自殺をする中高生の気持ちも、よく分かる。 誰か、俺からこの苦しみを解き放ってくれ… そんなことを願ってると後ろから声がした。 「ど、どうしたの?キョンくん?」 そこには、心配と驚きの表情を浮かべた春日が立っていた。 三章へ
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ハルヒと親父3−家族旅行プラス1 その2から そんなこんなで、出発当日。 ハルヒから電話をもらった俺は、パッケージング・バイ・ハルヒのトランクを、俺の部屋から玄関へと運び、その到着を待っていた。 ほぼ予定時刻に、すでに涼宮家を満載したライト・バン型タクシー(?)が、うちの家の前に到着した。 「いわゆる空港行きの乗り合いタクシーだ。予約している飛行機の便を連絡しとくと、タクシー会社が調整して、ドア・トゥ・ドアで送迎してくれる。今日は、おれたちだけみたいだが」 とハルヒの親父さんが、運転手に代わってそのシステムを説明してくれる。 「それじゃあ、行ってくるから」 と家族に、特に妹に、言い聞かせるように旅立ちの挨拶をする。 「ご迷惑かけないようにね。涼宮さん、お世話になります」 「こちらこそ。無理を言ってすみません」 「いえいえ、うちの馬鹿息子は、本当にハルヒちゃんにはお世話になりっぱなしですから」 といった親たちのエール交換は、当人たちには「どうでもいい」というレベルを遥かに超えて「今日のところは、どうかひとつ、そこまでにしておいてくれ」というべき方向へどんどん発展していってしまう。 俺がハルヒの方を見ると、ハルヒも俺の方を見ていて、目の中で首を縦に振っている。よし、それじゃあ、 「そろそろ行かないと」 と俺が口火を切り、ハルヒはそれに合わせて、親父さんの脇をかるく肘でつく。 「ごほん。そうだな。じゃあ行ってきます」 大きな音で咳払いし、大きな声で親父さんが宣言。皆がうなずいて、車がゆっくりと前で出た。 「あれ、妹ちゃん」 車は走り出したが、妹が走って追いかけてくる。 うう、兄ちゃん、そこまでのドラマはいらないぞ。いつもどおりの妹でさえいてくれれば、カバンにこっそり入ってさえなければ。 「あれ、妹ちゃんが手に持って振ってるの、パスポートじゃないの?」 「わはは。お約束だな。大方、トイレに行っている間、持っててくれ、と預けたままってところか?」 親父さん、図星です。 車は止まり、俺とハルヒが飛び降りる。 俺はパスポートを受け取り、ハルヒは妹の頭をなでる。 「キョン君、気をつけていってくるんだよ。ハルにゃん、キョン君をお願いね」 「うん、わかったわ。絶対、元気にして帰すからね」 いや、それはやり過ぎと言うか、胸を張り過ぎというか。それから妹よ、あまり殊勝なことを言うな。そういう時は「お土産、忘れないでね」くらいにしておいてくれ。でないと、最近ただでさえゆるい兄の涙腺が……。 「ほら、キョン。ちゃっちゃと行くわよ。飛行機は、遅刻したナショナル・チームだって待ってくれないんだから」 確かに、ここでこれ以上ドラマを掘り下げたら、また搭乗まで話が進まなくなるだろう。 別れを惜しみつつ、いざ行かん、天国にだって近いという、なんとかいう南の島。 「それと、あんたのパスポート貸しなさい」 素直にハルヒに渡すと、ハルヒかバックから出した布製のケースみたいなのに俺のパスポートを入れて、返してきた。 「ほら、パスポート・ケース。これで首から下げられるから、なくさなくて済むわ」 「ちなみにお手製だそうだ」 「親父、うっさい」 午前の道は、俺たちの前途を祝福するかのようにガラすきで、空港へは登場予定時効の3時間前に着いてしまった。 「余裕があるに越したことはない」 と親父さん。 「俺なんか離陸の30分前に、食パンをくわえて出国審査を受けたことがある」 「あんたは転校一日目から遅刻するヒロインか!?」 ハルヒのつっこみも、今日は長打こそないが、確実に芯で捉えている。ボール(?)が見えている証拠だ。 「ちょっとチェックインしてくる。キョン君、わるいがそこのカートに積んでトランクを運んで付いて来てくれ」 「はい」 ハルヒの母さんとハルヒと俺のトランクをカートについて、自分のトランクを転がしながら先を行く親父さんの後を追う。 カウンターでは、これも親父さん的にはきっと恒例なんだろう。ナイストゥミーチュー、スパシーボなどなど、怪しい多国籍人を装う話術でカウンターのお姉さんの目を白黒させながら、それでも当初の目的を果たしてしまう。なるほど、ハルヒ母+ハルヒが、遠くで他人の振りをしているのは、このせいか。と、親父さんに気付いたのか、カウンターの奥の責任者っぽい人がカウンターにやって来た。 「ベルさん、今日は出張じゃなくて家族サービスかい?」 「何度も言うが、俺は鈴宮じゃなくて涼宮だ」 「こっちの彼は、お初だね?」 「ここはどこの飲み屋だ? こいつは保安官補でキョン。ついでにいうと、俺の娘と恋仲だ。まあ、いずれは決闘だな」 「おいおい、ハルヒちゃんも、そんな歳か。少年、しっかりやれ。この親父は悪いやつじゃないが質は悪いぞ」 「ははは」笑うしかないよな、ここは。 「おい、有能な彼女が手続きができたって、言ってるぞ」 親父さんは、ややオーバーアクション気味に、責任者さんに不平をいう。 「オーライ。じゃ、トランクに貼ったこのシールの切れ端を持ってってくれ。あとでトランクを探すのに役に立つ。ボンボヤージュ(よき旅を)!」 「発音がなってないよな。ま、とりあえず、ハルヒたちと合流するか」 その必要はなかった。カウンターでの一部始終を、涼宮家の女性軍は遠目ながらもしっかり見ていて、絶妙のタイミングで自分たちの位置を知らせるように歩いてきた。というより、彼女たち自体が、遠目からでも見落としようがない存在感やら何かを周囲に発散しているのだ。 そんな訳で、俺の隣にいた親父さんは言った。 「おい、いいだろ。あそこにいるのは、おれの女房なんだ」 「ぐっ」 さ、さすがにその手は……使うのは、何だかいろいろ怖い。 「すまんな。たまには年長者に勝ちを譲るのもいいもんだろ?」 その気になったら全戦圧勝じゃないですか、と心の中で言う。へたれ、俺。 「旅はまだ始まったばかりだ。陽気にいこうぜ、キョン君」 「ちょっと親父! またキョンをいじめたでしょ!?」 ハルヒが、つかつかつか、と早足でやってくる。ロボットのように肩をすくめる親父さん。 「オー、マイ、ドウター。ワタシガ、イツ、ゴシュジンサマ ヲ ソンナ メ ニ」 「読みにくいだけから、出典が明示できない物真似はやめなさい」 「でも、ふざけてるのはわかるだろ?」 と、ひらりとかわす親父さん。 「いつ真面目なのかが、わかんないの!」 それをも狙い打つ娘ハルヒ。 「いつもこんな感じよ」 と日だまりのようなニコニコ笑顔を絶やさないハルヒ母。 「はあ」 とすでに慣れてきているが、それがよいことなのかどうか、未だに判断がつかない俺。 次は手荷物検査場はずだったが、 「ああ、キョン君、俺たちはこっちから行こう」 「向こうの列、すごく混んでましたね」 「手荷物検査場はどうしてもなあ。関西の空港も優先ゲートができて助かってる」 「親父、わがままなくせに、待ったり並ぶのが嫌いだからね」 「わがままだから、嫌いなんだ」 俺たちが向かっているのは、専用ゲート(専用保安検査場)というところのようだった。なんたら会員(ゴールド・メンバー?)になっておけば、ただでさえ混む手荷物検査場も専門の(つまり空いている)検査場で済ますことができるし、さっき預けたトランクも優先取り扱いされて、到着後あまり待たずに受け取れるのだとか。どうすればメンバーになれるかって?親父さんによれば、 「要はたくさん飛行機に乗りゃいい」 だそうだ。 「といっても、伊丹じゃ、もう何が優先やら、って感じで混んじまってるがな」 優先検査場というだけあって、手荷物検査はあっけなく済んでしまった。ありがちな時計やらキーケースなんかの出し忘れを、事前にハルヒのやつに注意されていたからではないこともない。 「出国検査場じゃ、こうはいかんぞ」 とニヤニヤして脅す親父さん。 「おどかすんじゃない。パスポートにハンコ押してもらうだけでしょ」 とつっこむハルヒ。ほんと、いつもこんな感じなんだろうな。 「ハンコ押すだけだが、国の外に出しちゃいかんやつもいるからな」 「このメンバーだと、親父よね」 「笑い事じゃないぞ。俺のツレなんか、家族旅行なのに、昔やった悪事がバレて大変だったんだぞ」 「だったら3人でバカンスを満喫するまでよ」 「だから、ツレの話だよ」 出国検査場もまた、なんということもなく、一人づつパスポートを見せ、ハンコを押してもらう。 ハルヒの親父さんのパスポートは、さすがにすごいハンコの数だ 「全部、仕事でだ」 と、やれやれ顔をつくって親父さんは言う。 「早く引退して、ひきこもりになりたいよ」 「親父がひきこもって何する気よ」 「庭でライオン飼って、夕方になったらドビュッシーを弾く」 「なにそれ?」 「映画だ、『007カジノ・ロワイヤル』の古い方。見たことないのか? あの希代のバカ映画を」 とりあえず、これで「出国OK」ということだな。形的には、一応これで外国に出た、ってことになるのか。 「向こうに専用ラウンジなんてものもあるが、おまえら、どうする? 搭乗までは、まだ結構時間はあるが」 「免税店とかあるんでしょ? ちょっと見て回るわ」 とハルヒはすでに、俺の手首を引っ掴んで、スタンバイの体勢。 「さっそく二人になりたい、とハルヒは思った」 オヤジさんは肩をすくめてみせる。 「へんな心理描写いれるな」 「じゃ、これからは茶々を入れてやる」 「よけい悪い! あんまりかわらないけど」 「検査が全部済んだと言っても浮かれるなよ。確率的には、今から搭乗するまでが、一番馬鹿みたいな失敗が多い」 「大丈夫よ」 ハルヒもおれも、パスポートとチケットは、ハルヒ謹製のパスポート・ケースに入れてある。 「時間厳守だぞ。時間が来たら、ナショナル・チームでも飛行機は待たんからな。で、おまえら時計持ってるのか?」 「あ」 「普段ケータイで時間を見てるような連中は、こういうはめに陥る。免税店で安いやつを見繕ってこい」 親父さんに一本とられたのが悔しいのか、ハルヒはアヒル口になって、無言で俺を引っ張っていく。 ハルヒの母さんはニコニコと俺たちを見送り、自分の鞄から布のブックカバーをつけた文庫本を出して読み始める。親父さんもそれに合わせてか、上着のポケットからペーパーバックを取り出す。 ハルヒは振り返らず、前だけを見てぐんぐん進む。俺は引かれていく。 「時計なんて、空港中いたるところにあるじゃない!」 「まあな」 「向こう着いたら、時間を忘れて遊ぶんだからね!」 「ああ、そうだな」 ハルヒはどこからかカードを取り出した。正確には取り出して構えた。 「腹立ちまぎれに無駄遣いしてやるわ」 「こらこら」 なんなんだ、その高級そうなクレジット・カードは? 「ブランド品なんかに興味はないけどね」 何故だか、恨みはないけどね、と聞こえるぞ。 「店ごと買うとか言うなよ。機内持ち込みできんぞ」 「わかってるわよ、そんなこと」 そりゃ、わかってるだろうけどな。 「ねえ、キョン。あんた、すごーく高い時計欲しくない?」 ほら、そうやって必ず不穏なことを思いつくんだ、おまえは。 「おまえはどうすんだ?」 「そんなの2つも買えないわよ。すごく高いんだから」 「全然高くないやつ、2つにしろよ」 「だーめ。もう決めたの」 「ヤクザかナンバーワン・ホストでなきゃ持てないような時計はいらんぞ」 「あほ。そんな時計、あんたに似合わないわよ」 じゃあ、「俺に似合う、すごーく高い時計」を探しているのか? それはすごーく嫌な予感がするぞ。 「はい、これ。安心しなさい。何十万も、何百万もするものじゃないから」 「あ、ああ」 「総称でパイロット・ウォッチって言ってね、文字通りパイロットがつける腕時計ね。元祖のブライトリング社のなら、満十万するけど。この文字盤の周囲についてるリングがあるでしょ。これが回るの。目盛りの刻み方が変なのに気付いた? これ回転計算尺になってるの」 「計算尺ってなんだ?」 「計算が、とくにかけ算と割り算だけれど、一瞬でできるものね。尺という位で、物差しタイプが一般的だけど、それを円形にまとめたものがこれ。パイロットは計器やコンピュータがみんな狂っても、残燃料と空港までの距離だとか、落下速度と地上までの距離とか、計算したいものが沢山あるでしょ、それも時間がらみで。だから時計に計算尺をつけたのは大正解ってわけ」 「ほう」 「わかってないわね。親父の腕時計、見た?」 「え?いや」 「まあ、あっちは元祖の本物だけどね。何万年に数秒しか狂わない電波ソーラー式時計の時代に、毎日10秒以上も狂う自動巻時計って何考えてんのかしらね。計算尺の使い方は、どうせ搭乗まで暇だからゆっくり教えてあげるけど、親父に聞けば、語りに語り続けるわ。旅行が終わっちゃうわね、多分」 わー、すげえ聞きたいが、今は聞きたくない感じ。 「だが、ひとつきりで、どうすんだよ」 「まだ、わかんないの?」 いや、わかってはいるが、今わかるわけにはいかない、というか。 「あんたがあたしの『時計係』になるに決まってるでしょ」 ラウンジの、ハルヒの親父さん&母さんのところに戻った。ハルヒが鼻息も荒く、俺の左手首を、とくに親父さんに、見せびらかすように高らかにあげる。俺は自由になる右手でこめかみを押さえる。オー、ジーザス。ああ、ほんとにすいません。 親父さんは「やれやれ」という意味のジェスチャー、ハルヒ母は読んでいた文庫本を口に当てて笑いがこらえられない様子だ。 「娘よ、やってくれたな」 「どう? ぐうの音も出ないでしょ?」 「負け惜しみで言うんじゃないが、キョンを日本に置いていったらな、どこかのバカの国際長電話代で、そんなもの5、6個は買えたぞ」 「と言ってる時点で、完全に負け惜しみね」 「ぐう」 しかたない、といった感じで本をしまったハルヒの母さんは、 「お父さん、いつ搭乗口に向かいます?」 「もう15分もすればアナウンスがあるだろうが、少し遅めに行こう」 「そんな、とろとろとしたことでいいの?」 腰に手をあてて胸を張り、暫定勝者ハルヒが親父さんを見下ろす。 「日本人は時間とアナウンスには従順だからな。合わせて動くと混雑を応援に行くようなもんだ。俺たちの席は前の方だから、少し遅れて乗り込む方が邪魔にならなくていい」 「あー、たいくつ、たいくつ!」 電車の長椅子に上って窓を見たいから靴を脱がせろと騒ぐ幼児のように、暴れ出すハルヒ。涼宮家ではこれにどういう風に対処するのか、後学のためにしばらく見ていよう。 「なんのために、キョンを連れてきたんだ」 って、親父さん、いきなり俺頼みですか? ハルヒの母さん、もう笑いスイッチ入ってますね? 「キョンはそんなんじゃなーい」 お、ハルヒ。あまり期待してないが、言ってやれ。 「キョンはね、キョンはね・・・」 それじゃ、古来の、針が溝をなぞっていた頃の壊れたレコードだ。 「・・・うー……と・に・か・く、キョンなのよ!」 「随分とテツガク的な惚気をありがとう」いや親父さん、今のは惚気では、ないと思います、よ。 「ハル、暇なら何か読む?」 「うん。母さん、何持ってきたの?」 「旅行には、やっぱり旅行記よね」 「って、えーと、クセノポン『アナバシス』? カエサル『ガリア戦記』? クラウゼヴィッツ『ナポレオン戦争従軍記』? って、全部、旅行記じゃなくて戦記でしょ!」 「あら、でもみんな遠征してるわよ」 「遠征は、旅っていえば旅だけども!」 「俺のを読むか?」 「期待しないけど、聞くだけは聞いてあげる。・・・Making a Good Script Greatって、何これ?」 「映画のシナリオをどう書き直すかのマニュアル本だな。ハリウッド映画だと、制作費が馬鹿でかくて映画が当たるか当たらないか不確定だから、映画自体に保険をかける。保険会社がキャスト表とシナリオを分析して、これだと当たりそうだから保険の掛け金は低くてこれくらいでいいや、このシナリオだとヒットしそうにないから掛け金を高くしよう、ってな具合にな。で、保険の掛け金を低く抑えたい映画会社やプロデューサーは、シナリオを『シナリオ・コンサルタント』のところに持っていくんだ。シナリオ・コンサルタントは元のシナリオの長所を生かしながら短所を修正していくんだな。どうやれば冒頭シーンで客を引きつけられるとか、どうやって泣かせるとか、いろいろ手練手管がある訳だ。これはそのシナリオ・コンサルタントの一人が書いたマニュアル本で・・・」 「そんな本読んで、どうしようっての?」 「あ、この映画はあの手をつかってやがる、ちがう、そこで例の手を使えばいいのに、といろいろ突っ込めて楽しいぞ」 「キョンは、あんな悪魔に魂売っちゃ駄目だからね」 俺はすこーし、その本を読むのもいいかもしれん、と思ったぞ。次作の超監督とかが。俺が読むと、俺が窮地に陥る気がしたので、口にはしないがな。好事魔多しとは、こういうことを言うんだろうか。 日本語と英語で、搭乗開始を知らせるアナウンスが流れた。 あちこちで腰を上げ、指定された搭乗ゲートの方へ流れていく人たち。親父さんと母さんは読書を続け、ハルヒと俺は、買ったばかりの腕時計の計算尺リングを回して、1.69×2.7といったかけ算をしているのだが、頭を付き合わせ、手を取り合って、何をしてるように見えるんだかね。 「人ごみが薄くなってきた」 親父さんがゆっくり腰を上げた。他の3人もそれに合わせて立ち上がる。 「ぼちぼち、ぶらぶら、まったり、行くか」 とにかく全く急がないで進もうという親父さんの提案に、他3人はそれぞれ違った風にうなずいた。多分、考えていることなんかも、それぞれに違っているんだろう。 搭乗口は、さっきまでゴッタ替えしていたようだった。自動改札みたいなのの側に係員のお姉さんが立っていて、そこでチケットを入れると、席の位置を示す半券みたいなのが出てくる。 親父さんはシナリオのリライト・マニュアルを読みながら、チケットをいれ、 「パスポートは?」と問いかけ 「あ、拝見します」という返事を待たずに、ポケットからパスポート入れを出して係員に渡している。あれもハルヒ謹製と見た。 「何をやるにも不真面目ね」 続いてハルヒがぷんぷん怒りながら通っていく。続いて俺。最後がハルヒの母さん。さすがに本はしまってある。 「思ったより、飛行機飛んでないわね」 大きなガラスの向こうの滑走路を見ながら、ハルヒの母さんが言う。 「国内便はみんな伊丹にいっちまった。午前10時から午後4時まで、ここから成田へ行く飛行機は一機もないそうだ」 という親父さんの答えに、 「そうなの」とハルヒの母さんはつぶやいてチケットをしまった。 すでに搭乗予定のほとんどの人が乗り込んでおり、飛行機の中に入ると中にはぎっしり人が詰まっていた。 親父さんが言ってたとおり、俺たちの席は、入り口からたいして離れていないところにあった。 ハルヒに窓側を譲ろうとしたが、「キョン、あんた始めてなんだから、あんたが窓際行きなさい」と頑として聞かない。 ようやく俺の頭に、いつぞやの古泉の言葉が浮かんだ。 「わかった。じゃあ窓際に座らせてもらうぞ」 「どうぞ」 3人がけの席で、ハルヒは俺の隣に座る、その向こうが通路側になりハルヒの母さん。親父さんは通路を挟んで、さらにその向こうに座る。 機長の自己紹介やら、救命設備の説明アナウンスやらが流れて、スチュワーデスさんが踊っているように装着の実演をやっていた。 「最近はビデオ流して済ますのが多いがな。マイナーな路線ほど、今のダンスが見れる」 2つ席の向こうから、親父さんが解説してくれる。 こうしてしっかり席についてから、離陸のために飛行機が滑走路を走り出すまでの時間がけっこう長い。これだけでかい空港でも、滑走路の数は少なくて、待ち時間なんかがあるためだそうだ。 全然別の経験なんだが、予防注射って奴は、注射のちくりという痛みよりも、注射されるまで並んで待っているのが案外つらいんだよな。 気がつくと、ハルヒの母さんの、ニコニコという音がほんとにしそうな笑顔からも、親父さんの何故か声はしないが「ゲラゲラ」というのが伝わってきそうな笑いからも、どこか生暖かい視線にも似たものが飛んで来ていた。 なるほど。そういえば、いつも騒がしいとなりの奴が、席に着いた途端に、借りてきた猫のようじゃないか。 「なあ、ハルヒ。ひょっとしておまえ、飛行機こわいのか?」 「ば、ばかじゃないの? 怖いわけがないじゃない!」 「鉄の塊が飛ぶのは、おかしいとか、信じられないとか、その手の類か?」 「こ、こんなもんはね、目つぶって寝てたら、いつのまにか現地に到着してるものなの!」 「それだと機内食も食えないだろ。ほら、手、貸せ」 「は?なに?」 「手だ。握っといてやる」 「あんた、ばかじゃないの。……親もいるってのに」 「かまわん。俺は気にせんぞ」 「あんたが気にしなくても、あたしが気にするわよ……その、ちょっとは」 「じゃあ、そっちの目はつぶってろ」 「意味わかんない。……わかったわよ、握ればいいんでしょ、握れば」いかにも渋々といった感じで、俺の手を取りに来る。 「……離したら、承知しないからね」 「母さん、ピンチだ。たすけてくれ。自分の娘と婿に萌え死にそうだ」 「まだ婿じゃありませんよ」 「『恋愛が与えることができる最大の幸福は愛する女性の手を握ることである』(スタンダール)」 「何か言いました?」 「いいなあ、って言ったんだ」 「飛行機に乗るなんて、いつものことじゃありませんか」 「忘れられんフライトになりそうだ」 その4へつづく
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古泉「僕の名は古泉一樹と言います。もし良ければ、僕がこの街の事を色々教えて差し上げましょうか?」 俺の前で憎いほどハンサムな二ヤケ面がそう言った。 正直こういう男は余りいけすかないが、俺達はこの町に来たところでまだ何も知らない訳でだからな キョン「そうだな。すまんが色々案内してくれるか?」 そう俺が言うとまるで予想しない答えが返ってきたかのように目を見開いたリアクションを取る古泉。 俺は何か可笑しな事を言ったか? 古泉「案内?はて、何のことでしょうか?」 キョン「いや、町の事を教えてくれるんだろ?とりあえず…」 言葉を全て喋り終える間も無く、キョン目の前に巨大な気功弾が襲いかかる。 紙一重でそれを交わしたキョンは戦闘の体勢を取る キョン「ぐっ…」(これは…こいつ、気を練れるのか?) ハルヒ「アンタ何すんのよ!」 目の前の男は苦笑交じりに答える 古泉「何…とおっしゃられましても……旅をする奴ってのは金を持ってるもんだろ?悪いが死んで貰うぜ?」 キョン「馬鹿な…気の使い手が町で戦うなど警察が黙っていない筈だが…」 古泉「警察?ハッ!そんなものはこの町に存在しない」 キョン「なんだと…?」 ハルヒ「だから町全体がこんなに荒れてる訳ね。治安が少しでも悪くなければ此処まで酷くはならないもの」 古泉「そういう事だ…さあ、さっさと死んで貰おうか」 左手にバレーボール程度の大きさの紅球を出した古泉は、それを上に放りあげると右手で勢いよくキョンに向って打ちこんだ 古泉『ふんもっふ!!!』 キョン「ぐっ!」 ハルヒは右、キョンは左にそれぞれ避け紅球を交わす。 ハルヒ「キョン行くわよ!」 キョン「ああ!」 キョン「そっちが気で来るなら…俺も気を練らして貰おう。はあああああああ・・・・」 青い光の粒がポツポツと出現し始める その光を全て両手の中に収め、キョンは発出の構えを取る 古泉「ほう…気を練れるのか。どうやら雑魚ではないらしい」 ハルヒ「やあっ!!」 気をキョンに取られていた古泉は後ろから攻撃を繰り出してきたハルヒに対して一瞬反応が遅れる ハルヒ『竜巻旋風脚!!』 回転の勢いで繰り出される飛び蹴りの連撃 古泉は全てを受けきり、反撃に転ずる ハルヒ「うそっ!?この技を受けきるなんて…」 古泉「この程度の技で俺に傷をつけられるとでも思ったか?」 今度は右手からバスケットボールほどの大きさがある紅球が現れる 古泉「死ね!セカンドレイ…」 キョン『波動拳!!!』 古泉「!!」 ハルヒに向けていた紅球を瞬時にキョンの放った波動にぶつける古泉 ドンッ!!!! お互いの気はぶつかり合い破裂する キョン「波動拳とあんな赤い球が同じ威力だと!?」 古泉「驚いたのはこっちですよ」 キョン「!」 ドン!! 後ろから現れた古泉の上段蹴りをキョンも上段蹴りで迎え撃つ お互いの脚は衝撃の中央で静止する キョン「せいっ!」 古泉「はぁっ!!」 二人は同時にとび蹴りを繰り出す そのとび蹴りも同様にお互いの脚で静止する。 その刹那、キョンは体勢を低くし足払いに転ずる しかし、それを読んでいた古泉は飛翔し、回転から中段蹴りを放つ キョン「はっ!」 それを肘で防ぎ、古泉の脚に微少のダメージを与える事にキョンは成功した 古泉「ぐ…ふふふ…やりますね」 後ろにジャンプし体勢を立て直す古泉。 古泉(まさかあのレベルの気を練れるとは…そしてあの身のこなし、どうやら相当修練しているようだ…だが残念ながら俺の敵では無いな) ハルヒ「あいつ結構やるわね・・・」 キョン「ああ、なかなか重い拳を放つ…だが勝てないような相手じゃない!」 ハルヒ「ええ!」 古泉「勝てないような相手じゃないだと…笑われてくれますね」 ハルヒ「アンタの攻撃は大体見切ったわ!気を使えるのは驚いたけどそれだけじゃないの」 古泉「虫ケラが…俺が本気でやっていたとでも思っているのか?」 ハルヒ「えっ…だって本気でやってたんじゃないの?」 古泉「本来『気』とは練ってそのまま放つものでは無い…それはあくまで凡人レベルの思考、拙い低次元の功だ」 キョン「面白い…俺は強い奴と巡り合う為に旅を続けている。高等技とやら、魅せれる物ならば魅せてみろ!!」 古泉「喜べ…本来お前達如きには使わない技だ…」 キィィィィィィィィィィン そう古泉がつぶやいた瞬間、辺りから耳鳴りのような音が聞こえる キョン(なんだ…この音は?) ハルヒ(不気味な音ね) ???「その音を聞いちゃ駄目だ!!」 キョン(誰かの声…?一体誰の…?) ハルヒ(あれ・・・目が霞んできた・・・) 古泉『紅極拳・縛纏術』 ===ピシィッ=== キョン「…!」 ハルヒ「あ、あれ・・体が…」 キョン「…動かない」 古泉「これが真の『力』だ…理解したか?」 キョン「何故だ…何故ピクリとも体が動かないんだ…?」 古泉「気とはコントロールするものだ。自然の流れに調和させたり、分散させ相手の内部神経を少しずつ破壊させたり、応用による操作が数多に行える。凡人には気を集めてそのまま放つという方法でしか気を使う事が出来ないが、素晴らしい事だ。だが、俺はそれを更に数段階超えた…それだけの話だ」 キョン「なん…だと」 ハルヒ「そんなの勝てる訳ないじゃない…」 古泉「さあ…どう死にたい?」 キョン(拳を交えた時に何か超越した気質を感じたが…こうまで次元が違うのか…)
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autolink SY/W08-108 カード名:ウェディングドレスのハルヒ カテゴリ:キャラクター 色:赤 レベル:0 コスト:0 トリガー:0 パワー:1500 ソウル:1 特徴:《団長》?・《ドレス》? 【永】 あなたのクロック1枚につき、このカードのパワーを+500。 もちろんあたしも着るわよ レアリティ:PR illust.- 初出:メガミマガジン 2006年10月号 ピンナップ② ブシロードスリーブコレクション Vol.31封入 願いを受け継ぐ者 秋葉やキングなどの「あなたのレベル置場のカード1枚につき」の亜種で、クロックが6枚あるときに最大パワーの4500になる新しい能力を持ったカード。 このカードを相手にしたときは、アタックする順番を考えないと、気づいたらパワーが足りないということになりかねないので注意しよう。 また、レベル置場と違いリセットされてしまうのでそちらの面でも注意が必要。 2ターン目あたりでクロックが3~5枚程度で出せるとベストか。
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いつからだったのだろう──── ────世界に色がついたのは いつからだったのだろう──── ────静寂に音楽が流れ始めたのは いつからだったのだろう──── ────いつも笑ってられるようになったのは いつからだったのだろう──── ────私の心にあいつが現れたのは ‐ 涼宮ハルヒの羨望 ‐ いつもと変わらぬ日常。 くだらない授業。 適当に聞いとけば満点の取れる内容なんて、ばかばかしくてイヤになる。 くだらない、ほんとにくだらない。 この生活が気に入っている人も居るんだろうケド、私にとってはただの苦痛。 なんで私はここにいるの? なんのために生きてるの? ふと、頭をよぎる当然の疑問。 誰しもが思い、誰しもが感じる、疑問。 ねぇ、なんで? 小さく、ほんとに小さく、誰にも聞こえないように呟いた。 そうすることで、何かが変わる気がしたから。 実際は─── ───言うまでもないケド。 退屈は私を覗き見る。 退屈は私を蝕む。 まるで、私は私自身が置き物のように感じる。 その気持ちに押しつぶされそうになる。 目頭が熱くなる。 私は、世界の部品じゃない。 耐え切れなくなって、前の席を叩く。 「……どーした?」 授業の邪魔にならないように、小さく呟くキョン。 めんどくさそうに、いかにもめんどくさそうにね。 キョン。 「何だ?」 ……なんだろう? 何のためにキョンを呼んだの、私。 こいつと話してると気がまぎれるの? そうなの、私? 「………ハルヒ?」 何よ 「いや、用はないのか?」 あるわけないじゃない。 ないから呼んだんじゃない。 ……あー、我ながら意味わかんないわね。 イライラするイライラするイライラする。 なんかない? 我ながら馬鹿馬鹿しい台詞。 「なんか、ってなんだ?」 なんかはなんかよ 「まず、何をしたいのか俺によくわかるように言ってくれ」 再び私を沈黙が覆う。 私、何がしたいの? …… 「ハルヒ?」 なんでもない。 「……おーい?」 もういい。 私がそう言うと、諦めたのか、前を見る。 そして会話中に黒板に書かれた文章をノートに書き写す。 なんでこいつはこんなに勉強しててあんなに頭悪いの? ばっかみたい。 長く連なる時の流れは私に退屈という名のナイフを突き刺していく。 その苦痛のせいで、寝ることもできない。 何か起こらないかな。 そんなどうでもいいことを望む。 ───あら? 何気なく校庭を眺めると古泉くんが歩いて校門へと向かっていた。 なんだろう、早退かな? 具合は悪そうに見えないから、何か用事でもあるのかな? 古泉くんの帰宅する理由を考えることで多少の気はまぎれた。 でもわかんないから今度聞いてみよう。 覚えてたら、だけどさ? ───キーンコーンカーンコーン やっと。 やっと終わった。 なんでこんなにかかるの。 時と交渉ができるのなら私の時間だけ早く進むようにして欲しい。 あ、楽しいときは別よ? 楽しいときはむしろ時間の流れを遅くして まぁいいわ、ようやく、私の時間だから。 「ハルヒ、さっきはどうしたんだ?」 不意に前の席から声がかかる。 なんでもないわよ、さ、行くわよ 「行くって?」 SOS団に決まってるじゃない! 「あ、ああ」 私は彼を残して教室を飛び出る。 待ちに待った放課後の時間。 待ちに待ったSOS団! さぁ、今日は何をしようかしら。 みくるちゃんにどんな服着させようかな。 そういえば昨日ネットオークションにかけられてたコスプレどーなったんだろう。 落札できてるといいな。 頭からどんどん湧き出る期待を胸に、私は意気揚々と文芸部室へ飛び込んだ。 部屋には有希と着替え中のみくるちゃんがいた。 「やっほぉー!」 「あ、こんにちは涼宮さん」 挨拶はもっと元気よくしなさい! そうね、語尾ににゃんとかつけるといいわ、かわいいから。 30分後、キョンが遅れてやってきた。 遅い! なんで私と同じクラスなのにこんなに遅いのよ! 「ちょっと成績のことで岡部とな」 なんなら私が一から教えてあげてもいいわよ? 丁寧に、かつわかりやすく。 「いい、隣で『なんでこんな簡単なのわかんないのよ、もーぅ』とか言われたくないから」 失礼ね! そんなこと…………ないと思うわよ? 保障はできないけど。 うん、100%なんてこの世に存在しないんだから。 「そういえば古泉は?」 古泉くんならさっき学校を出て行くのが見えたけど? 「古泉一樹は用事のため早退」 あら、有希、聞いてたの? 「昼休みに少しだけ」 理由はわかる? 「不明」 そっか。 楽しい部活の時間が過ぎていく。 有希が本を閉じた。 それは部活終了の合図。 いつも凄く正確で、驚くぐらい。 私は荷物をまとめて部室を出る。 明日は土曜日ね、いつもの場所でいつもの時間に!古泉君にも言っといて。 最後にそう皆に伝えた。 登校の時はキツめの坂道を、私は悠々と、一人で降りる。 ずっと、皆といられたらいいのに。 ふと、立ち止まる。 ずっと、いられたらいいのに? 不意に、不安が、私を掴む。 どうしてこんな気持ちになるの? わからない。 まるで、この日常が壊れることへの不安? 気にしすぎよ、少しは体もやすめないと壊れちゃうわ。 違う。 何が違うのかはわからない。 けど、何か違う。 いつも感じる日常とはまた別。 退屈という名のナイフじゃない。 これは何? 不安で足を早める私。 家について、ご飯を食べても、まだ私に絡みつく。 お風呂を浴びてさっぱりしても、何なのこれ。 部屋の中で電気もつけずに、私は枕を抱きかかえる。 ふと、思いついた。 ピリリリリリリ 「もしもし?」 キョン、私だけど。 「どうした」 ……… まただ、なんで私またキョンに? 「明日、ちゃんと来てよ?」 …今更じゃない、私? キョンは予定をサボったりはしない。 少なくともいつもはそうだったし。 「どーした?」 何が? 「なんか、今日のお前変だぞ?」 気のせいよ。 「…そうか?」 そうよ。 「わかった、明日もちゃんと行く」 絶対よ? 遅刻したらまたおごりだからね! 「遅刻しないでもおごるのは俺じゃねーか」 つべこべ言わないの! 「へいへい、じゃ、また明日な」 あ、キョン。 「ん?どした」 ……なんでもない。 「?」 明日、ちゃんと来なさいよ? 「わかったわかった、んじゃな」 電話が切れる。 なんだろう、この気持ち。 カーテンを開けて、窓の外を見る。 どこまでも広がる、星の瞬く夜空。 3年前に校庭に書いたメッセージは、どこかで誰かが読んでるだろうか。 その日の月は、とても綺麗だった。 ふぁ~。 よく寝た。 夜空を眺めながら、私はカーテンを開けて寝た。 そうすれば私は安心できたから。 昨日、あんなに不安でいっぱいだった頭も、一晩寝たらすごく軽かった。 結局なんだったんだろう、あれ。 まぁいいわ、準備して行きますか。 キョンより早くいかないとね、おごりはあいつ、私じゃないわ。 そこについた時、キョン以外のメンバーはすでにいた。 やっぱりできのいい団員がいると違うわね、うん。 みくるちゃんはやっぱりかわいいわね、私服も。 「そーですかぁ?ありがとうございます」 ほんとにかわいい、もし私が男だったら襲ってるわ、間違いなく。 有希、いつも眠そうだけど、ちゃんと寝れてる? 「大丈夫」 いつも通りの口調で返答される。 ならいいんだけど。 古泉くん、なんで昨日早退したの? 「少し親族のほうに急な用事ができまして」 肩をすくめて笑顔で答える。 ふーん、ま、いいわ。 にしても、キョンはいつも遅いわね。 いっそのこと集合に遅れないように私が毎朝電話してたたき起こしてやろうかしら。 時間が過ぎていく。 遅い! 遅い! 本当に遅い! もう一時間も遅刻してるじゃない! 携帯に連絡しても出ないし! なんなのよもう! それにしても遅いわね! 何してるのかしら! もう一度携帯電話に手を伸ばす。 こうなったら出るまでずっとかけてやるんだから! ピリリリリリリリ…… ガチャッ あら?繋がった? 「ハルヒちゃん?」 出たのは、キョンの母親だった。 なんで? 予想もつかなかった。 考えたくもなかった答えが返ってきた。 うそよ! 公道を私達を乗せた車が疾走しついく 「きっと、大丈夫ですよ、涼宮さん」 ありがとう、みくるちゃん。 そうよね、大丈夫よね。 うん、じゃなきゃ許さないわ。 絶対、絶対許さない。 だって、だって約束したじゃない、今日絶対来るって、昨日。 「もうすぐつきます」 古泉くんが呟いた。 走る窓から病院が見えた。 キョンが倒れた? ありえない。 そんなベタな展開、認めないからね。 さようならも言えずに、サヨナラなんて、そんなの認めないからね! 原因は何? なんで倒れたの? なんでキョンなの? どうして今日突然? 昨日までピンピンしてたじゃない! 病院につくと同時に、私はキョンの入院してる部屋まで駆け出した。 前もあったっけ、こんなこと。 クリスマスパーティの準備中に、あいつがいきなり。 やだ、思い出したくない! いやよ!いやよいやよ、いや! 気を失ったキョンの顔。 でもあの時は、ちゃんと起きたわよね。 そうよ! 今回も大丈夫なはず! じゃなきゃ許さない! 約束したじゃない、来るって! 胸へとつかえる何かを感じながら、私は病室のドアを開いた。 そして感じた、視線。 私を見つめる、妹ちゃんの目。 キョンの母親の目。 お医者さんの目。 そして、 キョン!よかった! キョンが私を見ていた。 意識は戻ってたらしい。 心配かけるんじゃないわよ!バカ! 私はキョンに駆け寄って、まくしたてた。 ホントは別のことを言いたかったけど、とにかく、無事でよかった。 ほんとに、よかった。 なんでそんな目で私を見てるの、キョン。 まるで、初対面を見るような─── 「ごめんなさい、あなたは、誰ですか?」 ―――――嘘って言ってよ 私は望んでいただけ そしてあいつは、それに応えてくれていた 私は調子に乗っていたのかもしれない 一度も、あいつの事を考えてあげなかった いや、考えてはいたのよ でも、結果的に、私はあいつを蝕んでいた そして、あいつが手のひらからこぼれおちた時 ようやく、そのことに、気がついたの キョン? 「キョンというのは、俺のことですか?」 何言ってるの? キョンはキョンよ、あなたでしょ 「すみません」 なんで謝るの? なんで?なんで?なんで? 「ごめん、なさい」 胸が痛む。 本当にキョンは申し訳なさそうな顔をする。 やめてよ。 「え?」 こんなの、キョンじゃない…… 「落ち着いてください、涼宮さん」 …みくるちゃん 「少し、話をしてもいいですか?涼宮さん」 キョンに聞こえないように私に呟く古泉くん。 古泉くん、話って何? 「彼の記憶喪失の原因についてです」 記憶、喪失? キョンが? うそよ、何それ。 何それ何それ何それ。 もしかしてそれが倒れた原因? 「医師の話によると倒れた理由も記憶を失った理由も同じらしいです。」 廊下で医師から一通りの説明をうけたあと、私は古泉くんと話していた。 古泉くんが続きを述べ始める。 「彼の精神は極度に疲労していた、それが倒れる原因になったと」 疲労? だって、そんなそぶりは一度も。 「長い間に蓄積されたものらしいです。」 どういうこと? 「例をあげて説明しましょう。 フラッシュバックというものがあります。 麻薬の一部には使用することで幻覚を見るものがあります。 その時の感覚が忘れられず人は使用を繰り返し、何度も使用するうちに麻薬は人の体を蝕みます。 重度の中毒者になった場合は、麻薬の恐ろしさに気づきやめるでしょう。 しかし、たとえ長い時間をかけて回復しても、ふとしたきっかけで全てが麻薬をしていた状態に戻ってしまうことがあります。 それが、フラッシュバックです。」 必死に理解する。 「つまり、彼の中には長い間精神的疲労、言わばストレスがたまっていきました。 しかし、そのストレスは小さなもので、簡単に消えていったはずです。 それが、何かのきっかけで消えたはずのストレスが一気に戻ったとします。 いわばストレスのフラッシュバックと言いましょうか、そうして、彼は倒れたのです。」 どうして? つまり悩みを抱えていたんでしょ? どうして私に言ってくれなかったの? 「それは、おそらく」 そこまで言って、古泉くんは口を閉ざした。 いつになく真剣なまなざし。 知ってるの? じゃあ、教えて。 「だめです」 なんで 「だめなんです」 教えないさいよ! 「涼宮さん……」 いいから、教えろって言ってんでしょうが!! ふと、気がつけば有希が隣に立っていた。 何? 「あなたは、知るべきではない」 何それ なんでよ? 「後悔する」 なんで? 「選択して」 何を 「知りたい?」 当たり前じゃない 「わかった」 「長門さん……」 「彼女は選んだ、知ることを。 だから伝える。」 「……わかりました」 「彼のストレスの原因は、」 私は言葉を待った。 沈黙で耳が痛くなった。 「あなた」 わたし? なんで、私なのよ。 「本当に、おわかりでないんですか?」 何を。 真剣なまなざしで、いつもと違う、怖い顔で私を見る古泉くん。 「彼はいつもあなたに合わせてきました」 ………… 「そしてあなたはまれに彼の精神レベルを超えた要求をしていたんです」 ………て 「それが彼のストレスとなった」 ……めて 「彼はあなたにこたえるために、いつも無理をしてきた」 …やめて 「彼はお人よしですからね」 やめて! 私は気がついたら両耳を抑えて叫んでいた。 「知ることを選んだのは、あなたです」 古泉くんは私に追い討ちをかける。 「だから伝えました、真実を」 いつからだったのだろう──── ────世界に色がついたのは いつからだったのだろう──── ────静寂に音楽が流れ始めたのは いつからだったのだろう──── ────いつも笑ってられるようになったのは いつからだったのだろう──── ────私の心にあいつが現れたのは いつからだったのだろう──── ────私の中のあいつがこんなにも大きくなっていた いつからだったのだろう──── ────あいつは、私にとって必要な人になっていた …ごめんね 私は泣いてた。 ごめんね、ごめんね、キョン 俯いて、両手で、顔を覆って。 ごめん、ごめん、ごめんなさい 有希が、倒れこもうとする私の体を支える。 「今日は、もう帰りましょう」 古泉くんがいつもの優しい口調になって喋る。 「あなたも、少し休むべきです」 うん、ごめんね。 「大丈夫です、おそらく一時的な記憶の混乱です、すぐに治りますよ」 そうね。 治ったら、いいな。 うぇえ… 「涼宮さん…」 どうやって帰ったのか覚えていない ただ、体がすごく重たかった ご飯は、全然おいしくなかった お風呂は、全然気持ちよくなかった どれだけ泣いたんだろう 枕は涙でびしょびしょだった でも、涙は枯れなかった 枯れてくれなかった 枯れるどころか、どんどん溢れでる 私にとって、それほどに大きくなってたんだ キョン 私は呟いた そして、泣き疲れて、寝てしまった 闇が、私を包んでいく 再び目を覚ましたとき、灰色の空の下、私は駅前の公園に居た。 そして、キョンがそこにいて、私を見ていた。 前にも似たような夢を見た。 夢よね? 夢、だよね? 目の前に立つキョンが私を見つめる。 私は耐えられなくなって視線を逸らす。 「ここは?」 キョンも驚いたような声を上げる。 当たり前よね、なんで私夢の中でまでキョンに迷惑を── 「ここは、覚えてる」 キョンが呟いた。 私は、はっとして彼を見据えた。 覚えてるって? 「なぜかはわからない」 キョンは私と目を合わせた。 私は今度は逸らさずに彼の瞳を見据えた。 申し訳なさそうな、でも、力強い瞳。 「ここに来なきゃいけない気がしたんです」 なんで? 「約束したから……」 私は、また泣いた。 ありがとう、覚えててくれて。 声を上げて泣いた。 ごめんね?ごめんね? ほんとに、ごめんなさい 私のせいで、私の、せい、で ふと、私の体がひっぱられた。 背中にキョンの左手が回される。 頭をキョンの右手が撫でる。 暖かい。 ありがとう。 ありがとう。 ありがとう。 もう少し、このままで。 「何、泣いてんだハルヒ」 ――――っ!キョン? じっとあいつの顔を見つめる。 いたずらっこみたいな表情で私を見る。 もしかして、記憶が? 「迷惑かけたようだな、悪ぃ」 軽く悪びれたそぶりで語るキョン。 迷惑? 迷惑かけたのは私のほうなのに? 「ハルヒ?」 私は、あなたにむりをさせたのよ!? 私は、あなたにわがままを押し付けたのよ!? 私は、私は、私は、あなたを、縛り付けたのよ!? 私、あなたに………謝りたかった 「ハルヒ」 何? キョンが私の目を見る とても力強く、決心したように。 私を抱いていた手に、力が入る。 痛いぐらいに、でも暖かい。 「どうして、俺がお前のわがまま聞いてたか、知ってるか?」 え? 「お前のことが大切だったからだ」 ………キョン? 「ハルヒ、俺はな、お前のことが──── え。 ふいに、目を覚ました。 頬を伝う涙。 体に残るあいつの温もり。 ベッドから降りる。 携帯を鳴らす。 再び、彼のもとへ 今度こそ、言えなかった言葉を。 ごめんね、と。 ありがとう、と。 そして───── ピリリリリリリ…… カチャッ 「もしもし?」 キョン? 「どうした?わがままな団長さん」 - 涼宮ハルヒの羨望 終 - 涼宮ハルヒの羨望、外伝 笑ってくれる 私のために 私みたいなわがままなヤツのために 嬉しかった すごく嬉しかった 私のわがままにつきあってくれる それがたまらなく嬉しかった ある雨の降る放課後 私とあなたしかいない部室 寝ているあなたにそっと呟いた ――――ありがとう ‐ 終 ‐
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…目的地に着いたのはいいが。未だ返信が来ないのはなんともな… 果たしてチャイムを鳴らしてしまっていいものだろうか? …まあ、もう来てしまってるわけだからな…。とりあえず、俺はインターホンを押した。 …… …… 一向に誰かが出る気配はない。…日曜だから家族総出でどこか遊びにでも行ってるのか?だとしたら、 メールが返ってこないのは一体どういうわけだろうか。単にマナーモード、ないしはドライブモードで 気付かないとか…そんなとこか? …まさかとは思うが、例の未来人たちに襲われたってことはねえよな…? 「…ハルヒ!いるか!?返事しろ!?」 玄関に詰め寄る。…やはり音沙汰が何もない上、玄関のカギは閉まっている。 「キョン…あんた、こんなトコで何してんの…??」 ふと背後から声をかけられる。そして、その姿を確認した俺は安堵の表情を浮かべる。 「…ハルヒか!無事だったんだな…。」 「無事って…?ていうか、人んちの玄関の前で叫んでみたりドアノブをいらってみたり… あんた傍から見れば完全な不審者よ?見つけたのがあたしでよかったわね!」 人が心配になって見にきやがったら…不審者だと!? ああ、確かにそう思われてもおかしくない状況だったかもな。素直に認めます、はい。 「なんとなくお前の顔色を伺いにきたんだよ。もう回復したのかなーなんてさ。」 「だからさ、大したことじゃないって言ってるでしょ。その証拠に…ほら。」 ハルヒが左手に提げている買い物袋を俺に見せる。 「お前買い物行ってたのか?」 「そうよ、夕食の買い出しにね。夢タウンまで。」 「夢タウンって…こっから3、4キロくらいはあるぞ?そんな遠くまで行ったのか。」 「大安売りの日だったからね。背に腹は変えられないわ!」 なるほどな…まあ、そんな遠方まで自転車で買いに行けるような体力があるんなら、 特に俺が心配するようなこともないのだろう。 「そうそう、俺は一応お前んち行くってメールしたぞ。なぜ返信しなかったんだ。」 「あ、そうなの?それはゴメンね。携帯、家に置き忘れてきちゃったから。」 そういうことか… 「まあ別にいいけどよ。携帯ってのは何かの非常時とかに有効だし、 なるべくなら肌身離さず持ち歩く癖はつけてたほうがいいと思うぜ。」 「ふーん…何?このあたしがどこぞの馬の骨とも知れない輩に襲われる心配でもしてるっての?」 お前をつけ狙ってる未来人がいるから注意しろ!とは言えねえなぁ… 変に言って刺激を与えてしまえば逆効果になる恐れだってあるし… 「いや、まあ、念のためだ念のため。」 「ま、持ってるに越したことはないもんね。次回から気に留めておくわ…。」 …… …気のせいだろうか?どこかしらハルヒの声が弱弱しく聞こえるのは… 俺の考えすぎか。 「…あ」 「どうしたハルヒ?」 「忘れた…」 「忘れた?何を?」 「カレー粉…」 …… どうやら今日のハルヒの夕食はカレーらしい。そういや買い物袋にはじゃがいもやにんじん、牛肉が ちらほら見える。それにしたって、カレーの基本であるカレー粉を忘れるなんてよっぽどだな。 しかも、それがあの団長涼宮ハルヒときた。やっぱまだ本調子じゃねえんじゃねえか?と疑いたくなる。 「あんた今あたしをバカだと思ったでしょ!!?」 「あー、いや、気のせいだ。気のせいだぞハルヒ。」 「まさかあんたの前でこんな失態を晒すなんてね…不覚。」 「気にすんなよ。人間誰にだって起こりえることさ。」 「あたしだって、あんなことなけりゃ気疲れせずにす…」 ん?何だって? 「いや…何でもないわ。とにかく、買ってきた食材を家に置いてくるから キョンはそこで待ってて。どうせヒマなんでしょ?」 そう言ってハルヒはカギを開けて家の中へと入っていく。…あの調子だと、 どうやら俺を否応にも買い物に付き合わせるつもりらしい。うむ、まったくもってハルヒらしい。 …まあ、もともと今日はハルヒと一緒にいようと思ってたから、結果オーライなんだが。 …それにしてもさっきハルヒは何を言おうとしたんだ?気疲れ?もしかして昨日長門が言っていたような… ハルヒを昏睡状態に陥れた電磁波とかいうやつが今だ尾を引きずってんのか?いや、それは違うな。 ハルヒをタクシーで送ったあの夜、特にハルヒから何かしらの異常を報告された覚えもないし… 時間が経って悪性の症状を引き起こしたにせよ、長門曰く…異常波数を伴う波動だ。 ならば、仮にそうであるなら相当深刻な事態に陥ってるとみて間違いないはず。 ところが、ハルヒは軽いノリで『気疲れ』という単語を会話に混ぜてきたではないか。この時点で すでに決着してるような気もする。粗方、テストで悪い点とったとか暖房のエアコンが故障したとかで 気落ちしたってとこだろう…頭脳明晰ハルヒ様なだけに前者はありえないがな。例えだ例え。 操行してる内にハルヒが中から出てきた。どうやら用事は済ませたようだ。 「じゃ行きましょ。」 「それはいいんだが、どこへ買いに行くつもりだ。まさか、また夢まで行くのか?」 「まさか。一個買うだけにそこまで労力は強いられないわ。近くのスーパーで十分よ!」 そりゃ非常に助かる。あんな距離、とてもじゃないが自転車で移動する気になれない… あれ?俺ってこんなにも体力のないヤツだったっけか?いつもならあれくらいの距離どうってことないだろ? いや、体力とか以前に元気が沸いてこな… …ああ、そうか。ようやく気が付いた。 今日まだ何も食べてねえじゃねえか俺…何かだるいと感じてたのはこのせいだったか。 「あんたさ、もうお昼食べたりしたの?」 ハルヒが尋ねてくる。 「昼飯どころか今日はまだ何も食ってねえんだ…。」 「は?何それ、バッカじゃないの??もう3時よ?? 普通朝飯やおやつの一つ二つくらいは食べてくるでしょうに…。」 哀れみの目でこちらを見つめてくるハルヒ。そんな目で見つめるな!仕方ねえだろ…起きたのが 2時過ぎだったんだしよ。まあ、これについてはハルヒには言わないことにする。まさかお前の今後について 本人抜きでファミレスで深夜遅くまでメンバーと会談してたなんて、口が裂けても言えない。 「運が良かったわね、あたしもまだ食べてないのよ。カレー粉買ってくる前にどこかに食事しに行きましょ!」 それは助かるぜ。今の俺には食欲は何物にも代え難い。 とりあえず、安いトコが良いってことで俺たちは最寄のファーストフード店へと足を運んだ。 看板にはMの文字が大きく書かれている。 「ダブルチーズバーガーのセットお願いします。飲み物は白ぶどうで。」 「あたしはテリヤキチキンバーガーのセットを。飲み物はファンタグレープで!」 しばらくして注文の品が届いた。俺たちは空いてるテーブルへと移動する。 …… おお、向こうの壁にドナルドのポスターが貼られているではないか。…だから何だという話だが。 「キョンどこ見てんの?…あら、ドナルドじゃない。」 最近のことだったろうか、俺の部屋に入ってきたと思いきや、いきなり 『ねえねえキョン君見て見て~!らんらんるーだよ~♪』とか言って万歳ポーズをとってきた妹の姿が 目に焼き付いて離れない。そういやそんなCM見た覚えはあるがな…妹曰く、これは嬉しいときにやるもんだとか。 それと、地味に学校で流行ってるんだとか何とか…なんとも混沌とした世の中になったもんだ…と俺は思った。 「そういえば、どうしてドナルドってマスコットキャラクターになんか成れたのかしら?」 「どうしてって…マクドナルドがそういう企画案を出したからだろ?」 「あたしが言いたいのはそういうことじゃない。仮にも国民皆に知れ渡っている有名チェーン店でもあるマックが、 どうしてこんな世にも恐ろしい顔をもつピエロなんかをイメージキャラクターにしたのかってことよ。」 世にも恐ろしい顔って…ドナルドに失礼だぞお前…。 いや、待てよ… 前言撤回、確かに怖い。 夜道を歩いていたとして真後ろにドナルドがいるとこを想像したらヤバイ。 就寝中ふとベッドの側で誰かが立っている気配があったとして、それがドナルドだったらヤバイ。 鏡を見たとき後ろには誰もいないのにドナルドの顔が映ってたりしたらヤバイ。 他にも…って、キリがねーな。 「百歩譲って、これがカジノとかパチンコみたいに大人客が中心の産業なら別にいいのよ。 問題なのはマックは子供たちからも絶大な支持を受けているってとこ。純粋無垢な子供たちが… 果たして妖怪ドナルドの顔を好き好んで食べに来たりするかしら?万一にもいたとすれば、 その子は精神科に見てもらうべきね。間違いなく病んでるわ。」 …ハルヒの言い分はめちゃくちゃなように見えて、実は結構筋は通ってる感じがする…まあ、さっきも 言ったように、俺ですら捉えようによってはドナルドは怖い存在だ。ましてや小さな子供たちは言うまでもない。 「言いたいことはわかるぜ。たいていマスコットキャラクターと言ったらカワイイ風貌してるよな。」 「そうなのよ。だから謎なの…これこそ不思議ってやつ?SOS団もようやく不思議らしいものを見つけたわね。」 おいおいそんなことで不思議になっちまうのかよ…お前の思考はいまいち理解できん。ドナルド様様だな。 …… 「あれだな、こりゃ発想の転換が必要なのかもしれねえぞ。」 「どういうこと?」 「俺の妹がつい最近ドナルドのらんらんるーってマネやってたんだよ。結構面白がってやってたぞ。」 「妹ちゃんが??」 「ああ。そこで俺は思ったんだが…例えばマックは子供、中高生、リーマン、家族と言った様々な顧客層を 開拓してる。つまり大衆向けチェーン店なわけだな。で、たいてい大衆向けともなれば、イメージキャラクター像も しだいと絞られてくるものだ。ポケモンやドラえもん、サンリオキャラのように愛くるしい容姿をしたものにな。」 「じゃあ尚更ドナルドはおかしいじゃないのよ。」 「そうだな。だから発想の転換だ。例えば、柄の悪い不良が… 公園で鳩や犬にエサをあげてるシーンを見かけたとしたら、お前はどう感じる?」 「漫画とかでありがちなパターンね…まあ、一気に印象はよくなるわ。」 「じゃあ、普段から動物たちにエサをあげている人と今言った不良…印象の上げ度合はどちらが大きい?」 「上げ度合と聞かれれば…後者かしらね。」 「そこなんだよ。見た目が怖いやつほど実際に良いことをしたときは周りから絶賛されるもんだ…人間心理的にな。 もちろん、普段から良いことをしてる人のがいいには決まってる。ただ、そのギャップの度合でついつい 錯覚しちまうもんだ。普段何らかのマイナスイメージをもってるヤツなんかに対しては…特にな。」 「つまり、ドナルドにもそれが当てはまるってこと?」 「そういうこった。よくよく考えてみれば、ただの芸人がふざけたことしたって当たり前すぎて何の面白味もないが、 おどろおどしいお化けピエロがらんらんるーをしてしまった場合は話は別だ。ネタ的要素が大きいが… その分、面白さの度合は一気に跳ね上がる。」 「…そうね!いつもヘラヘラしてる谷口がやったって『相変わらずバカなことやってるのね』 の呆れた一言で終わるけど、キョンが『らんらんるー』やってたらなんかすっごく面白そう! 普段おとなしくて我が強い人間なだけに…くっく…想像したら笑いが…あ…あっは…は… キョン、どうしてくれんの…よ、あんたのせいよ!あははは!!」 はあ… ホントにもう… そんなに俺のらんらんるーを見たいのなら、いくらでも見せてやろう。そんときはお前の夢にまで 出張するくらい洗脳してやるから覚悟しておけよ。悪夢を見てから悲鳴を上げたって、もう手遅れなんだからな? とまあ、冗談は置いといてだな…いくらなんでも谷口はそこまでバカじゃないぞ。友として、谷口の名誉のためにも 一応言わせてもらう。あいつは一見バカなように見えて、実際は越えてはならない境界線は常に把握している 立派なホモサピエンスだ。え?もしらんらんるーをしたらどうするかって?そんときゃ絶交だ。 「おい、国木田、あそこにドナルドの写真が映ってるぜ!」 「あー、そうだね。」 「そういやさ、最近ドナルドの…あるネタがブームになってるって知ってるか?」 「え…知らないなあ…谷口は知ってるのかい?」 「おうよ!流行を先取りした俺に知らないものなんてねーんだよ!」 …何か、後ろのほうで見知った声がするのは気のせいか?いや、気のせいだと思いたいんだが。 「あら、あれ谷口と国木田じゃない。あいつらもココに来てたのね。」 …… 「そのネタっていうの何なのか見せてほしいな。」 「じゃあ、しかとその目に焼きつけよ!らんらんるー!!!」 …友情決裂。さらば谷口、てめーとは金輪際絶交だ。 「なかなか面白い芸だね。あれ…あそこに座ってるのはキョンと涼宮さん?」 「…え…?」 国木田がその言葉を発した瞬間だったろうか、谷口の顔がまるで 頭上からカミナリを落とされたかの如く硬直してしまっているのはこれいかに。 「あいつ…本当にらんらんるーやったわよ?やっぱ谷口ってバカだったのね。」 「ハルヒよ、とりあえず同意しとく。」 「お、お前らどうしてココに!?」 谷口が紅潮した顔で咆哮する。あまり大声を出すな、他の客に迷惑だろうが。 「どうしてって、ただお昼を食べに来ただけよ。悪い?」 「そ、それもそうだな…はは…は…」 谷口が生気を吸い取られるかのごとく屍と化していくのが見てとれる。そんなに俺とハルヒに 見られたのがショックだったか…まあ、せめてもの慈悲として見なかったことにするから安心しろ。 「谷口さ、今はキョンと涼宮さんには話しかけないでおこうよ。二人ともデートしてるみたいだしさ。」 国木田よ…お前はお前でどうして火に油を注ぐようなことを言うのか… それも、俺たちにちょうど聞こえるくらいの音量で。 「な、何言ってんのよあんた!?何か勘違いでもしてんじゃないの!??」 言わんこっちゃない。団長様乱心でござるの巻。せっかくの温和な雰囲気がぶち壊しだ… とりあえず国木田、来週の月曜顔を洗って待ってろ。 というわけで、俺たちはどこぞやの二人組のせいで早々と退散を余儀なくされた。 久々のハンバーガー…もっと味わって食べたかったぜ。 「あー、なんなのあいつら!?落ち着いて食事もできなかったわ!」 気持ちはわかるが、お前もお前で過剰に反応しすぎな気もするがな…。 「まあまあ、気を取り直してスーパー行こうぜ。夕食のカレーこそはのんびりと食せばいいじゃないか。」 「…それもそうね。」 そんなわけで、俺たちはカレー粉購入のため、スーパーへと立ちよった。早速カレーコーナーへと向かう。 「あったあった、これよこれ!」 カレー粉を手に取るハルヒ。…辛口か。 「…キョン、カレーらしさって何だと思う?」 「…辛さか?」 「そうそう!辛さよ辛さ!辛口ほどカレーらしさを追求してるものもないわ!」 …ハルヒもカレーに対して何かしらの情熱をもっているのであろうか?長門、よかったな。こんな身近に ライバルがいたなんて、いくら万能長門さんと言えども想定外だったはずだ。とりあえず、突っ込みを入れとく。 「それは、単にお前が辛いもん好きってだけの話だろう…。」 「わかってないみたいね。まあ、あんたも食べてみれりゃわかるわよ。」 「へいへい、今度食べてみますとも。」 「何言ってんの?今から食べるのよ。」 …? 「つまりアレか…?お前が作るカレーを、俺がこれから食べるってことか?」 「そゆこと。どうせこの分量じゃ確実に一人分以上出来上がっちゃうし、両親も 仕事の都合で今日は帰ってこれないから、誰かに食べてもらわないとこっちが困るのよ。」 そういうことですかい。ま、せっかくの機会だし、ありがたく食させてもらうとするぜ。 後で家に連絡しとくとしよう…夕食は外食で済ますってな。 …… カレー粉を手に入れた俺たちは、特に寄り道をすることもなくハルヒ宅へと向かった。 岐路の途中で、俺は自宅へと先ほどのメッセージを伝えるべく電話をかけた。まあ、伝えたはいいものの 『朝6時に帰ってくるとは何事だ!?』とか『昼飯食べずにどこ行ってたの!?』とか散々怒られてしまったのは 秘密だ。いや、当然っちゃ当然なんだよな…おかげで思ったより長い電話となってしまった。 ハルヒが一人手持無沙汰になっているではないか…。 電話している最中に気付いたことなのだが、何やらハルヒは首をキョロキョロさせていた。 決して俺の方を見ているわけではなかったらしい。方向としては後ろか…後ろに何かあるのか? と思い、俺も振り返ってみたが…特に変わった様子はなかった。 電話を終えた俺はハルヒに問いかけてみた。 「なあハルヒ、一体どうしたんださっきから?」 「あ、いや、何でもないわよ…」 「さては、後ろ首や背中がかゆくて仕方なかったんだろう?どれ、俺がひっかいてやろう。」 「な、なに許可なく体に触れようとしてんのよ!?このセクハラ!」 「じゃあ許可があれば触ってもいいわけか?」 「こんの…変態!!」 あー、ついには変態呼ばわりか。それはきついな… まあ、お前の緊張をほぐそうと思っての行動だったんだ、大目に見てくれよ。 …… ハルヒが緊張しているのには理由がある。俺も先ほどまでは 単なる気のせいとしか思ってなかったんだが…やはり何かおかしい。 妙に違和感を感じるのだ…俺たちの後ろで。 気配が… …… 単刀直入に言おう。俺たちは何者かにつけられている。 そいつの姿を確認したわけではない。しかし、どう耳を澄ませたって…俺たち二人以外の足音が 後方から聞こえるという、この奇妙な事実…音の反響とかそういうわけでもない。 ただ一つ言えること。それは、早いとこハルヒ宅へと帰還したほうが良さそうだということだ。 さて、家へと着いた。 「早速作ろうっと。」 手を洗い、颯爽とキッチンへと向かうハルヒ。顔は笑ってはいるが…内心はある種の恐怖を 感じているに違いない。もしかして、昼に会ったときから何か様子がおかしかったのはこのせいか? …まさかとは思うが、ストーカー被害にでも遭ってるのか…? …… まあ、その是非を今ハルヒには問うべきではないだろう。あいつは今カレー作りに勤しんでんだ… その熱に水をさすような野暮なマネは…俺はしたくない。とりあえず、聞くのなら 夕食を食べ終わってからでも十分間に合うはずだ。俺も、今だけはこのことを忘れることにする。 …さて、俺は何をすべきか。さすがにハルヒがカレーを作っている横で、一人テレビを視聴するのは 何かこう…罪悪感が…。かと言って、キッチンに入って手伝おうと言ったところで足手まといだろう。 なんせ、食材や調理器具の場所が一切わからないのだから。つっ立ってるだけで邪魔なだけである。 …… まあ、何もしないよりはマシか。手を洗い、キッチンへと入る。 「あら、キョン手伝ってくれるの?」 「ああ。できることがあればな。」 …不覚、エプロンをまとったハルヒに一瞬ときめいた。 「じゃあそうね…このたまねぎとにんじん、じゃがいもを水洗いしててちょうだい! で、これ包丁…暇があるならたまねぎも切っててもらえると嬉しいわ。」 「おう、任せとけ。」 「あたしはナベに油をひいて、あと塩水でも作っとく。」 「塩水??一体何に?」 「いいからいいから、自分の作業へと戻る!」 へいへい。とりあえず水洗いに専念するとする。 …… 大体終わったか…時間もあるし切るとするかな。ハルヒは…というと、りんごを小さくスライスしていた。 …デザート?にしてはやけに小さすぎる。ああ…なるほど、さっき言ってた塩水につけるつもりなんだな。 それでアクをとり、カレーに入れるって魂胆か。…ん? 「ハルヒよ、お前辛いカレーが好きとか言ってなかったか?」 「そうだけど、どうして?」 「そのりんご、カレーの中に入れるんだよな。りんごはすっぱさもだが、同時に甘さも引き出すぞ。」 「ちっちっち、甘いわねキョン、あたしをなめてもらっては困るわ!単に辛さだけを追求するほど、 あたしは単純な人間じゃないのよ!確かに本質は辛さ…でもね、それにちょっと工夫をこなすことで、 辛さの中に甘さを見出せるおいしいカレーを作ることができるの!覚えときなさい!」 何やら言ってることが意味不明だが…とりあえずハルヒさんの情熱に、俺は感銘を受けておくとする。 そんなことよりたまねぎだ…こいつ、目から涙が出るから嫌いだ。何か良い方法はないものか… まあ、臆していても仕方ない、とりあえず切ろう。 …… くっ…涙が… 「キョ、キョン!?何やってんのよ!?」 「何って泣いて…いや、違った。見ての通り切ってんだがな。」 「じゃなくて、どうしてみじん切りしてんのかって聞いてんの!」 あ… ああああああああああああっーーーーーー!! しまった…カレー料理だということをすっかり失念してしまっていた… 「すまんハルヒ…申し訳ない。」 「…ま、いいけど。小さなたまねぎってのも、たまにはいいかもね。」 おや、すっかり怒鳴られるかと思ったが…それどころかフォローまでされてしまったぞ? なぜ上機嫌なのかは知らないが…反動で明日にもアラレが降りそうで怖いな。 「じゃ、今度はにんじんとじゃがいも頼むわね。はい、これ皮むき機!」 すでに中火でナベを熱しているから、おそらくもう少ししたらたまねぎと牛肉、 そしてにんじん、じゃがいもってな段取りか。それまでには間に合わせねえとな。 「おう、今度こそ任せとけ!」 早速にんじんとじゃがいもの皮むきに取り組む俺。 …… ふう…慣れない作業はきついぜ…普段あんま料理などしたことのない身なんで特にな。 ハルヒはというと、すでに俺が切ったたまねぎと牛肉をナベへと入れ、しゃもじで混ぜている段階だ。 こりゃ急がねえと… 「キョン、別に焦る必要はないわよ。それでケガでもしたらバカみたいだし。 何かあったら弱火にすればいいだけよ。」 「お前が俺の心配すんなんて珍しいな。いつもなら『早くしないと承知しないわよ!』とか言うそうだが。」 「へえ…?あんたはそう言ってほしいわけ?そう言ったってことは、そう言ってほしいのよね?」 「すまん。俺が悪かった…。」 やっぱりいつものハルヒだった。 …… よし、なんとかむき終わった。あとは切るだけだ…!おっと、 ここで焦ってはいけない。さっきのたまねぎのような失敗をしないためにもな。 「ハルヒ、にんじんとじゃがいもの切る大きさはカレーの場合、 人によって好みがあるんだが、お前はどのくらいの大きさがいいんだ?」 「そうね…別に大きくても構わないわよ。」 「了解したぜ。」 仰せの通り、俺はにんじんとじゃがいもを大雑把に乱切りする。 「どうだハルヒ!?今度はOKだろう?」 「あら、キョンらしさが出てていいんじゃない?及第点よ。」 キョンらしさって何だ?大雑把に乱切りされた雑な形…なるほど、これが俺らしさか。意味がわからん。 「たまねぎと牛肉の色合いもそろそろ良い頃ね。キョン!にんじん、じゃがいもを入れてちょうだい!」 「おう。」 ジューッと音をたてて食材がナベに転がり落ちる。これは美味いカレーにたどりつけそうだ。 「さーて、今度は……むむ、キョンにしてもらうことは特にもうないわね。」 「そうなのか?」 「ええ。後はあたし一人がナベの番をしてたら事足りるし。」 「そうか…あ、そういやご飯はどうした?」 「あたしが忘れるとでも?昼にとっくに保温済み。いつでも炊きだちで取り出せるわ。 ってなわけでお疲れ様、キョン。リビングにでも行って休んどくといいわ!」 「まあ、やることがないなら仕方ないか。また何か 手を借りたいことがあれば呼んでくれよな。カレー頑張れよ。」 「あたしを誰だと思ってんの?あんたは大船に乗ったつもりで構えときゃいいのよ!」 素直に『うん、頑張るね!』と返せばいいものを…ま、いいか。それがハルヒだもんな。 よくよく思い返してみれば、今日のハルヒはいつもよりおとなしく、そしてお淑やかなほうだったじゃないか…? これ以上ハルヒに対して何かを望むのは、それこそ贅沢というものだろう。 そんなこんなで俺はリビングへと向かい、ソファーに腰を下ろすのであった。 ふう…ようやく一息ついたな。カレーができるまでのしばしの間ボーッとしとくとするか… 何やらいろんなことがありすぎて疲れたぜ…。思えばここ2、3日は随分と濃い日々だったのではないか? 今こそこうやって、ハルヒと平凡にカレー作りを営んでいるが…。 ヒマだしいろいろと回想してみるか。まず事の発端は何だっけか?そうだ、震災で町が崩壊する 夢を見たんだ。それから…ハルヒから音楽活動についての発布があったな。しまった… そういやメロディー作ってこなくちゃいけなかったんだよな。いろいろあって忘れてた。 それから…そうだ、未来には気をつけろみたいな趣旨の手紙を下駄箱で入手したんだっけか。 その後、朝比奈さん大に会って藤原には気をつけろと言われ… …… もしかして、俺たちをさっきつけていたのは藤原…ないしはその一味か? だとしたらハルヒの監視ってことで十分説明もつくな。 回想の続きに戻るが…その後家に帰って寝て…今度は地球が滅ぶ夢を見てしまったと。翌日SOS団で バンド活動に取り組もうとしてた矢先にハルヒが倒れる…それがきっかけで夜緊急集会が開かれたと。 それから…俺は夢の中で過去の自分を垣間見て、目を覚ましたのちに長門と古泉にそのことを話して… …長門と古泉が俺を呼びだした理由、まだ聞いてなかったな。電話じゃなく口頭で話すつもりだったとこを見ると、 それなりに重要性を秘めた話だったのではないかと見受けられるが…。気になる、後で電話でもして聞いてみよう。 で、その後俺はハルヒの家に行き、途中で何かしらの気配を感じながらも家に帰り、そして今に至るというわけだ。 …… ハルヒが見せてくれた三度の夢、そして長門や古泉による解説等のおかげで…大体状況は つかめてきたのだが、いかせん未だ腑に落ちない点が多い。不明なものが多すぎるんだよ…。 例えば下駄箱に入っていた例の手紙。未来に気をつけろってのが何のことなのか…未だにわからん。 『未来』などという抽象的単語はできるだけ使わないでほしいね。無駄に、処理に時間がかかる。 その後朝比奈さん大から藤原に気をつけろと言われるわけだが、じゃあどうしてあんな手紙を入れたのかと 問い詰めたくなる。あの手紙の差出人が彼女じゃなかったのだとしたら、それもわかるが。だが、その場合 一体誰があんな手紙を?誰が何のために朝比奈みくるを偽って俺に手紙を?いや…あの執筆は 前に俺が見た朝比奈さん大と同じだったような気がする…じゃあやっぱりあの手紙は朝比奈さん大が …やめよう。頭が混乱してきた。 他は…ハルヒを気絶させた犯人は誰なのかってこと。朝比奈さん大の忠告を鵜呑みにするのであれば、 犯人は藤原一派だと一目瞭然なのだろうが…そもそもだ、俺自身何かしらのステレオタイプを抱いている 可能性がある。例えば、状況証拠から考えて犯人は未来人だと勝手に決め付けていたが…本当に犯人は 未来人なのだろうか?そうである場合は藤原一派だと断定できるものの、もしそうではなかったら? …考えたって悪戯に頭を疲弊させるだけだな。 後は、長門と古泉が俺に何を告げようとしていたのかってことだ。 まあ、これはさして重大な案件でもないだろう。本人たちに聞けばわかることなのだから。 そして最後は、俺たちをつけていた輩が一体誰なのかという…ハルヒを気絶させたヤツと同一犯と見て 間違いないんだろうが…。とりあえず事態の進展を待つ他ない、か。闇雲に一人で考え込んでたって、 次々と新たな可能性が生まれるばかりでキリがねえ。かといって、真相がわかるまで何もしない というわけにもいくまい。常に冷静に…氾濫する情報の取捨選択に徹して、なんとしてでもハルヒを守り抜く。 それが…今の俺にとっての最善であるはずだ。俺はそう固く信じてる。 「キョン!できたわよ!お皿出すの手伝ってー!」 おお、ようやく待ちに待ったカレーの完成か!今行くぞ。 「「いただきまーす。」」 合掌する二人。 …… 「どうキョン?味のほうは?」 「悪くないんじゃないか。十分食えるぞ。」 …しまった、この言い方では…まるで【ハルヒは料理が下手だとばかり】 と暗に示唆してるようなものではないか!?弁解しておくが、決してそんなことは思っちゃいない。 『涼宮ハルヒ』と聞いて思い浮かぶものは何だ?たいていは奇人変人、天上天下、唯我独尊、ギターボーカル、 スポーツ万能、頭脳明晰…などといった類であろう。俺が言いたいのは、これらのワードから連想されうる限りで 『料理』の要素を含んだものは見当たらない、ということ。つまり、俺はこれまでハルヒに対して…少なくとも 『料理』という項目に関しては、特に明確なプラスイメージもマイナスイメージも抱いてはいなかった ということである。おわかりだろうか?先ほどのハルヒへの返答は、先入観無きゆえの事故なのだ。 「ふーん、無難なコメントをするのね。ま、それも仕方ないか。」 おお、妙に勘ぐられたりしないで助かった…って、仕方ないとはこれいかに? 「例えばこのお肉。これ安物なのよ。」 「そうなのか!?」 「焼き肉とかで使用する高級肉を使えばもっと味も出たんでしょうけどね。財布との相談で、ついカレー用の 薄いバラ肉買っちゃったのよ。ああ、でも決して邪見したりしないでよね!?質による差異こそあれどカレーに おいてはね、牛肉の場合ほとんどはカレー粉との整合性で味が決まったりするんだから!他にもナベに入れる スープだって…本来なら鶏のガラを煮込んだものじゃなきゃいけなかったのに時間との都合で…。でも 一般家庭とかでもね!時間に余裕がないときは代わりに水を使うってのはよくある手法なのよ!?だから」 「わ、わかった!!お前が精一杯頑張ってるってのは伝わったからもういいぞ! そりゃ金銭的・時間的な問題じゃ仕方ねえよ。それにだ、仮にもカレーをおごってもらってる身分の俺が お前に対して文句や贅沢を言うとでも…思ってんのか?んなわけねーだろ。感謝してるんだぜ…本当にな。」 「わかれば良し!」 …顔が少し赤くなってるように見えるのか気のせいか? まあ、いろいろ取り乱したからな。おおかた動揺でもしてるんだろう。 「それにしても滑稽ね…この細かく刻んである小さな物体は。」 いきなり話題変えやがったな…しかも、敢えて遠回しに言うことで俺に何かしらの揺さぶりをかけようとしてる。 「たまねぎ、みじん切りにして悪うございましたね。」 …こればかりはどうしようもねえ。どう見たって俺が悪い。 「それと、泣きながら切ってる誰かさんも滑稽だったかな。」 さすがにこれには反論させてもらおうか。これに関しては何一つ俺に落ち度はない! 相手がたまねぎである以上、この怪奇現象は生きとし生ける全ての者に訪れるものなのであるから。 調子に乗るのもそこまでにしてもらおうかハルヒさんよぉ…。 「そんなこと言っていいのか?ハルヒ。お前もこれを切りゃあ決して例外じゃねえんだぞ?」 「やっぱアホキョンね。そんな当たり前の反駁、聞き飽きたわ。」 …何…?? 「良いこと教えてあげる。たまねぎってのはね、周りの皮をむいたあと 冷蔵庫に10分くらい入れとけば… その後切ったって涙は出にくくなるのよ!その様子だと知らなかったみたいね~」 「何だと!?それは本当か??」 「本当よ。ま、疑うのならヒマなとき家で試してみることね。」 …またまた俺の敗北である。どうやらこいつのほうが俺より一枚上手らしい…って、ちょっと待て。 「ハルヒよぉ…そういうことはなぁ…」 …… 「たまねぎを切る前に言え!!」 「怒らない怒らない、過ぎちゃったことなんだし…もうどうでもいいじゃない。 『過ぎ去るは及ばざるがごとし。』って言うし!」 どうでもよくない!しかもそのコトワザの使い方違う!あ、いや…ハルヒのことだ、 おおかた敢えて誤用してみましたってとこだろう。まったくもって嫌味なやつだ… そんなバカ話をしながら、俺たちはカレーを平らげた。 …… 「それにしても、こういう辛い料理と合わさると麦茶のうま味も一気に引き立つな。」 「確かにそうね。…おかわりいる?」 「お、すまんな。頼む。」 2リットル型のペットボトルから静かに麦茶を注いでくれるハルヒ。その麦茶をすする俺。 …… そろそろ本題に入るか?いや、こういう事は向こうから話してくるのを待つべきなのかもしれないが。 しかし、相手に自分の弱みを見せようとしない…気丈で自尊心の高いハルヒが 安々と悩みを打ち明けてくれる…ようにも思えない。ここは俺から切り出すべきではなかろうか? 「ハルヒ、最近何か嫌なことでもあったか?」 「…え、い、いきなり何??」 揺さぶりをかける俺。 「お前が元気なさそうに見えたからな。ちょっと気になったんだ。」 「…あたしそんな顔してた?」 「ああ。」 「……」 …… 「あんたってさ…ボーっとしてるようで、実は結構鋭いとこがあるわよね。」 …ついに観念したのか、ハルヒは話し始めた。 「…朝方に両親が出てってからね…何か様子がおかしいの…。」 「……」 「最初はただの気のせいだと思ってたんだけどね…やっぱりするのよ…気配が。」 「…気配か。」 「家にはあたし一人しかいないはずなのに…何か音がするの。それも風の音とか暖房の音とかじゃなくて…。」 「…人的な音…か?」 「ええ…そうよ。聞き間違いだと思いたかったけど、確かに聞こえた。でも周りを見渡したって誰もいない…。」 「……」 「笑っちゃうよね、キョン。あたしがこんなこと言うなんてさ…少なくとも、おかしくはないはずなんだけど…。」 なるほど、ハルヒが俺に話をためらう理由がわかった。俺の考えていたような、単なるプライドだけの 問題じゃないらしい。話すことによって俺に【幻聴】や【被害妄想】などと断じられるのが怖かったのだ。 それもそうだろう…音がするのに周りには誰もいない。こういった不可解な症状を継続するようであれば、 たいていの常人はハルヒを【異常者】と決めてかかっても何らおかしくはない。 それをハルヒはわかっていた。だからこそ、俺にも話したくなかった。 「安心しろよハルヒ。お前がおかしいだけなら、俺もお前の仲間入りだぜ。」 「ど…どういうこと?」 「さっき外を歩いててな、俺も同様に何か気配を感じたんだよ。気配というか…人の足音みたいのをな。」 「キョンも!?」 「ああ。もちろん、そのせいでお前が極度の緊張状態に陥ってることもわかってた。 だから…くだらんジョークでも言って気休めさせてやろうと思ったんだがな、すっかり変態呼ばわりというわけだ。」 「…そうだったの。でもあたしは謝らないわよ!人の体を触ろうってのは、理由が何であれ言語道断なんだから!」 「おお、元気出たみたいだな。それでこそハルヒだ。」 「キョン…。」 …… 「その後、あたしは家の中にいるのが怖くなって外へ出ようと思った。遠くて…そして人通りの多い場所へ。」 「…まさかお前が夢タウンまで買い物しに行ったってのは…そのせいだったのか??」 「ええ…本音はね。建前は大安売りって言っちゃったけど。だからね… 家に帰ってきてあんたを見つけたときは正直ホッとした。」 …古泉と長門の話を聞かないでハルヒに会いに行ったのは、結果的には正解だったんだな。 「それからはあんたと行動を共にしたわけだけど…まさか外でも忌々しい気配を感じるとは思わなかった…。」 「スーパーから帰る途中だよな。」 「キョンはさ…あれ、一体何だと思う?人間?幽霊?」 「幽霊はないだろうよ。いつの時代のいかなる怪奇現象も元をたどれば 人為的、ないしは単なる自然現象であることが確定済みだからな。」 「…じゃあキョンはどっちだと思ってんの?」 「常識的にも考えてみろ、あんな自然現象あるわけねえだろうが。これはれっきとした人間の所業だ。」 「じゃあ何?ストーカーとでもいうの??…ワケわかんない!心当たりなんかないのに…」 ストーカー…まあ表現自体は間違ってねえかもしれねえな。 お前に神としての記憶を覚醒させようとする何者かの仕業なんだろうが。 …こればかりは俺一人では手に負えない。外に出て、古泉にでも電話して相談するとしよう。 「ハルヒ…ちょっとばかし外出してくる。」 「!?どうして?」 「いや…家の周りに不審人物がいないかどうか確かめてこようと思ってな。」 「な…!?もうあたりは暗いのよ?危険だわ!」 「安心しろよハルヒ。すぐ戻ってくるからさ。」 立ち上がり玄関のほうへ向かおうとしたら、急に後ろ方向へと引っ張られる。 …ハルヒにジャケットの裾をつかまれていた。 「…本当にすぐ戻ってくるんでしょうね?」 台詞こそ毅然としていた。…だが、その手が震えていたのはどういうことだ?これじゃまるで、 【一人にしないで】と言ってるようなもんじゃないか。その瞬間、胸が痛くなった。同時に、ある種の 苛立ちも覚えた。さっきこんな話をしたばかりだというのに、ハルヒ一人残して出て行こうとする、俺自身に。 「すぐ戻ってくるから心配すんな。」 「キョン…」 できれば俺だってハルヒと一緒にいたい。だが、事態を好転させるには今じっとしてるわけにはいかなかった。 後ろ髪を引かれる思いで、俺は外へととび出した。 …電話をかける前に、有言実行はしておかねばなるまい。 俺は庭や周辺を隈なく歩いてみた。…特に怪しいところはない…今のところは。 「もしもし、俺だ」 「おや、キョン君。無事涼宮さんとは会われましたか?」 「ああ…おかげ様でな。ところで話したいことがあるんだが…」 「僕でしたら、昼あなたとお会いした公園におります。どうせならそこで会話といきませんか? 昼のときと同様、長門さんもそこにいらっしゃいますので。」 目的地に着いた俺。ハルヒのとこから走って2分もかからない距離だ。 「夜分遅くご苦労様です。」 「……」 案の定古泉と長門がそこにいた。 「古泉…そして長門。まさかとは思うが…昼3時くらいに会ってから… 今(夜8時)の今まで、ずっとこの公園にいたんじゃあるまいな…!?」 「そのまさかですよ。ですよね、長門さん。」 「…そう。」 「…マジかよ。よくこんな寒い中5時間以上もいられたな。何かワケでもあるのか?」 「涼宮さんを守るため…と言っておきましょうか。この公園は彼女の家から非常に近いですからね。 何かあったときにもすぐ駆けつけられる距離にありますから。」 「…わかるようでわからないな。ここからハルヒ宅までは…400mくらいはあるぞ。 もっと良い場所があるんじゃないか?塀の近くとか。」 「それでは、通行人から不審者だと誤解されてしまう恐れがある。かえって無駄な事態を引き起こしかねない。」 「長門さんの言う通りです。逆に公園のような場所であるなら、留まっていたところで 別段不審に思われることは ありませんからね。ベンチに座って読書をしたり、弁当を食べたりしているのであれば尚更です。」 なるほど。確かに一理ある…。 「ということは、お前は弁当をここで食ってたわけだな。」 「さすがに飲まず食わずでずっといるわけにもいきませんからね…途中コンビニに出向いたりはしてましたよ。 そんなことより、何か我々に話したいことがあってここに来たのでは?」 「おう。じゃあ、二人とも聞いてくれ。」 …… 「それは恐ろしいですね…。これは僕なりの推理ですが、犯人は自身の存在を情報操作で 隠蔽したのではないでしょうか?実際はそこに存在していても、外部からは姿を確認することはできません。 長門さんのような力を有す人物ならば、いとも簡単でしょう。」 「情報操作?長門のような力?…じゃあ、ハルヒや俺をつけてた野郎の正体は宇宙人ってことか?」 「古泉一樹、その意見には反論させてもらう。」 珍しく異議を唱える長門。どうやら、彼女の犯人像は古泉とは異なるらしい。 「確かに古泉一樹の言う通り、その程度の情報操作ならば 我々情報統合思念体にとっては 造作もない。実行は可能。しかし、音が聞こえたというのであれば話は別。」 音…足音のことだな。 「なぜなら我々は環境情報の改ざんで、一般に有機生命体が移動時に伴うノイズ音をも 外界からシャットアウトできるから。外部に音が洩れるというのは、まずありえない。」 「…言われてみればその通りです。いやはや、長門さんには敵いませんね。」 宇宙人説は消えたか…。 「じゃあ長門、お前はこの件についてはどう思う?」 「…可能性として、ステルス迷彩を考えてみた。」 す、ステルス??って、アレか?光の屈折具合で姿が見えなくなるとかっていう… 「ステルス迷彩ですか。確かに、それを体にまとえば瞬時にして透明人間の出来上がりですね。 もっとも、現代の科学技術ではまだ実用化には至っていないようですが…。」 なるほど、それならばあの足音の説明もつく。だが、実用化されてないとなると…またしても行き詰まりか。 「確かに、この現代においては取得不可。しかし、未来技術をもってすればそれも可能。 今の科学技術の進展具合から推察するならば、そう遠くない未来ステルス機能は実用化の段階に入る。」 …… 「つまり、犯人は未来人。私はそう考える。」 …これほどまでに説得力のある説明をされて異議を唱えるヤツなど、もはやどこにもいないであろう。 長門らしい見事な推理…彼女の手にかかればわからんことなど無いと言っていい。 「長門、ハルヒを気絶させたやつと今回の犯人は…もしかして同一犯か?」 「確証はない。しかしその可能性は高い。」 やはりそうか…まあ誰が相手にせよ、常に警戒レベルはMAXでいるべきだろう。なんせ、電磁波やステルス等 といったとんでも技術を有す連中だ。油断して攻撃を喰らうような事態にでもなればシャレにならん。 「お前らのおかげで大体のところはわかったぜ…恩に切る。」 よし、これにて一件落着…というわけでもない。まだ用事が一つ残ってる。 「古泉、長門、話してくれ。昼に俺を呼びだした際、一体何をしゃべろうとしてたのかをな。」 「「……」」 なぜか無言のままの二人。 「ど、どうした??大丈夫か?」 「あ、いえ…すみません。つい言うのをためらってしまいました。」 ためらう…とは?そんなに言いづらい案件なのか? 「私も、そして古泉一樹も話すことに抵抗を感じているのは確か。」 「長門がそんなこと言うなんてよっぽどだな…でも、お前らは 昼呼び出して俺に話そうとしたじゃないか。何を今更躊躇してるんだ?」 「「……」」 二人は答えない。アレか、話の流れ的に言いにくいってことか?…今俺たちは何の話をしてた? 俺とハルヒをつけてた犯人のことだな。で、それは未来人の可能性が高いってことで話は終了した。 …… 「もしかして、未来に関係するようなことでも言おうとしてたのか?」 「…長門さん、そろそろ話しましょう。黙っていてもラチがあきませんし。 何を話すのか、薄々彼も気付いてるようです。」 「…了解した。」 嫌な予感がする。 「今から我々が話すことというのは」 …… 「朝比奈みくるのこと。」 まあ、そんな気はしてた。昼に長門と古泉に呼び出された際、朝比奈さんの姿だけ見当たらなかった時点で。 「朝比奈さんが…どうかしたのか?」 「今日の午前11時47分、朝比奈みくるがこの世界の時間平面上から消滅した。」 ……なん…だって? 「しょ、消滅って…どういうことだ?!朝比奈さんはどうなったんだ??」 「落ち着いてください!彼女は無事です!」 「午後1時24分、彼女は再びこの時間平面上へと姿を現した。」 「…つまり、今朝比奈さんは普段通りにこの町にいるってことか?会おうと思えば会えるってことか?」 「そういうことです。」 「よかった…。」 俺は安堵の表情を浮かべる。 「って…そりゃまたどういうことだ?つまり朝比奈さんは11時何分かに時間跳躍でもしたってことか?」 「そう。行き先はもともと彼女がいた世界…未来だということは判明している。」 「…なら、特に驚くようなことでもないんじゃないか? 上からの急な指令で未来へ帰ったりとか、大方そんなとこだろ?」 「平時であるなら我々もそう考えます…しかし、今は違います。非常時です。 一か月もしない内に世界が滅ぼされる…この事態を非常時と言わずして何と言います。」 「そりゃ、確かに非常時なんだろうが…だからどうしたってんだ?」 「今のこの世界が滅べば…当然ですが未来も消滅します。 そしてその影響は少なからず未来へも…すでに出始めているはずです。」 「そして今この世界は滅ぶか否かの…いわば分岐点にたたされている。それは、同時に 未来が滅ぶか否かの分岐点とも置き換えることができる。その瀬戸際の時間軸に位置する未来人を 未来へと帰還させるというのはよほどの理由があってのことだ、と私は考える。」 「…お前らの理屈で言えば、つまり朝比奈さんはこの世界、そして未来を救うべく奔走してるってわけだろ? なら、それでいいじゃねえか!なぜ話すのをためらったりしたのか、俺にはわからんな。」 「確かに、ここまでの会話を聞いただけではそう思うのも当然でしょうね。ここからが話の核心なわけですが… では、そんな重大性を秘める時間移動を…彼女はどうして我々に話してはくれなかったのでしょうか??」 …… 「彼女がここの時間軸に戻ってきたのは午後1時24分。その時刻から 今(午後8時35分)まで…伝えようと思えば私たちにはいつでも伝えられたはず。」 「…禁則事項とやらで話ができなかっただけじゃないのか?」 「この世界は危機に瀕してるのですよ。我々だって…最悪の場合死ぬかもしれない。 そんな時期に際してまでも、彼女は我々より【禁則事項】とやらを優先しようとするわけですか?」 「…古泉よ、それ以上朝比奈さんのこと悪く言ったら承知しねえぞ。 あの人が俺たちのことどうでもいいとか、そんなこと思ってるわけねーだろが!」 「……」 「…古泉一樹を責めないであげて。彼は彼なりに頑張っている。 彼と機関の立場を…朝比奈みくるのそれと当てはめて冷静に考えてみるべき。」 長門… 朝比奈さんは俺たちの仲間であると同時に未来人でもある。 未来からの指令は絶対…禁則事項がそれを物語ってる。 古泉は…同じく俺たちの仲間であるとともに機関に属する超能力者でもある。 機関からの命令は絶対… 絶対…? 俺は以前古泉から聞かされた言葉を思い出していた。 『もしSOS団と機関とで意見が分かれてしまった際には… 僕は、一度だけ機関を裏切ってあなた方の味方をします。』 …古泉の俺たちへの仲間意識は相当なもんだったじゃないか。 だからこそ、古泉は朝比奈さんに対して苛立ちを覚えてしまったのか? 仲間よりも未来を優先する素振りを見せてしまった…彼女を。 「すまん古泉…お前の気も知らないで。」 「…いえ、いいんです。僕こそつい熱くなって… 仮にも仲間を悪く言うようなことを言ってしまい、申し訳ないです。」 「…私自身も朝比奈みくるのことは決して悪く思いたくはない。 しかし、まだあなたに伝えねばならないことがある。」 話すのをためらってた理由は…まだありそうだな。 「言ってくれ長門。覚悟はできてる」 「…朝比奈みくるがここの時間軸に戻ってきた午後1時24分以降、 これまでに6回…ある未来人との電話での接触を確認している。」 「ある未来人?一体誰だ…?」 気のせいか動悸が速まる俺。 …… 「パーソナルネームで言うところの、藤原。」 …え?
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…… 「…ここはどこだ?」 気がつくと、俺は真っ暗な空間へと浮かんでいた。 目の前には地球が広がっている…隣には月らしきものも見える。 「ここは…宇宙?」 あまりに広大すぎる暗黒の大空間に、 青く澄みきった水の惑星を目の当たりに 俺はただ呆然と立ち尽くすだけだった。 ! 「地球が燃えている…」 青かった地球がいつのまにか赤く変色していた。 「一体何がどうなってんだよこりゃ…」 自分の置かれている状態もそうだが、全く状況がつかめない。 !? 「今度は透明に…?」 次の瞬間には地球は水色に近い透き通った色へと化していた。まるで氷で覆われたかのごとく…。 …… 「…また青に戻ったか。」 再び地球は青色へと戻った。しかし、どうやら何か様子がおかしい。 「陸地が…ない…?」 地球全体が真っ青な球体へと化していた。緑や茶色といった陸地が ことごとく消滅してしまっているのが見てとれる。陸が海に呑まれてしまったとでもいうのだろうか。 …… 今度はどこからか泣き声が聞こえてくる… 「この声どこかで…」 どこか聞いた覚えのある声。 「まさか…ハルヒか!?」 そう叫ぶと、いつのまにか声は聞こえなくなっていた。 「…え?」 ふと地球のほうに目をやって俺は驚愕した。なんと、先程まで見えていた地球が消滅してしまっている… いや、消滅というのは言い方が悪い。正しくは【見えなくなっている】と言うべきだろう。物を見るためには 言うまでもなく光が必要であるが、その光が四方を見渡しても見当たらないのだ… 光源体である太陽は一体…どこへ行ってしまったというんだ?? 再び声が聞こえる。 「…や…い…あた…したく…な…」 その声は、しだいに大きなものへとなっていく。 「いや…い…あた…こ…な…くない…」 …… 「嫌…っ!嫌!!あたしは…こんなことしたくない…!!!!」 !? ッ!! …… …デジャヴ いつもと同じ見慣れた俺の部屋。窓から朝日が射していることから、 おそらく今は朝なのであろう。昨日のように時計を確認するまでもない。 いや… 一応確認しておくか。 時刻は7 38 ほら見ろ、やはり朝じゃないか!と得意げに語っている場合でもない。一歩間違えりゃ遅刻じゃねーか畜生。 急いでかばんに教科書やノートをつめる俺。にしても自らの不覚さを嘆かずにはいられない。 なぜ俺は【目覚ましセット】という当たり前にして当然のごとく行為を、昨夜忘れてしまったというのか? それほどまでに、俺は昨日疲れてたってのか? 準備を終えた俺は廊下で妹と軽く挨拶を済ませた後、 食卓に並んだトーストを口に頬張り、潔く玄関を飛び出した。 …… 「はあ…はあ…まったく、いい運動だぜ…。」 今俺がいる位置は、学校に隣接するあの忌々しい長い長い坂のちょうど真下である。つまり、 俺はここまで全速力で走ってきた…というわけだ。携帯で時刻を確認、とりあえず遅刻は免れたようである…。 時間的余裕もあるので歩くとする。この坂を走らねばならないとなった日には自殺ものであろう。 それが防げたというだけでも、俺は今日も力強く生きられるというものである。 …ようやく落ち着いたところで、俺は昨晩の事象を振り返ることができた。 「まさか二日続けておかしな夢を見るとは…。」 その一言に尽きる。支離滅裂かつ荒唐無稽な夢など一体誰が進んで見ようなどと思うのか… まあ夢など言ってしまえば、全てそういうもんなのかもしれないが。とにもかくも、 まず話をまとめることから始めるとするか…と思ったのだが、そもそも抽象的すぎて 何をどうすればいいのかもわからん。とりあえず…特徴らしきものだけでも挙げていってみるとしよう。 ・地球の崩壊 ・謎の声 …明確に挙げられるのはこの二つくらいか。なぜ俺があのとき宇宙にいたのかは知らんが… (単に視点が宇宙だったってだけかもしれんが)地球が燃えたり氷ったりするのを、確かにこの目で見た。 ならば崩壊という表現は別に差し支えないだろう。そして極めつけは、夢が覚める直前に聞こえてきたあの声… 「あの声は…ハルヒだったのか?」 もしそうなのだとしたら、一昨日みた夢との関連性が見えてくる。一昨日の夢では地震やその他怪奇現象で 町が壊滅。昨日は地球が…規模こそ全く違うが、同じ【崩壊】というワードでくくることができる。そして… 思い出したくはないが、地震により家族が息を引き取った際、放心状態に陥っていた俺の脳内に響いてきた… ハルヒの声。あのときハルヒは『助けて!』言っていた。昨日の例の声は…確か『こんなことしたくない!』 とかいう内容だったかな。両者に共通することは、俺に向かって何らかのSOSを発信していたということである。 俺は常識人だ。ゆえに町や、ましてや地球荒廃などといった異常にさらに異常をかけたような とんでも事態が発生するなどとは…微塵も思っていない。ただ、あれらがハルヒの無意識の内に 発動した…俺に対する干渉なのだとしたら?一連の超常現象はあくまで比喩であり、夢の本質自体が 実は、ハルヒが俺に救助信号を発信するだけのただの手段でしかなかった可能性が浮上してくる。 つまり、ハルヒは今現在とてつもない悩みを抱えている…その可能性が非常に高いということである。 その悩みが何なのかは俺には見当もつかないが。というのも、最近のハルヒに変わった様子など 特に見受けられないからだ。万一それに俺が気付かなかったとして、長門や古泉がそれを見逃すとは 考えにくい。だから、なおさらである。 …… とまぁ、ここまでカッコよく主張してみたはいいものの… 一連の夢がハルヒの能力とは無関係の、本当の意味でのただの【夢】だったのだとしたら、 ここまで深く熟考している俺など、傍から見れば滑稽以外の何者でもないだろう。 そうである場合、谷口にすら嘲笑される自信がある。それでもだ、俺自身こんなネガティブな展開など 望んじゃいない。ハルヒが何か多大な悩みを抱えて苦しんでる姿なんて、想像したくもないからな。 「あら、キョンおっはよー。予鈴ギリギリね。」 教室に着き、俺はいつもと同じく後部座席にて座っておられる団長様に声をかけられた。 「そうみたいだな。遅刻を免れて助かったぜ。」 どうするか…朝っぱらからいきなりハルヒにこんなこと質問すんのもアレかもしれんが、 一応言っておこう。杞憂であれば、それに越したことはないんだからな。 「なあハルヒ。」 「ん?何?」 「お前さ、今何か悩んでることとかあったりするか?」 「…は?」 「言葉通りの意味だ。」 しばらく沈黙が続いた後、その均衡を破ったのはハルヒだった。 「…ぷっ、あっはっはっは!キョン、朝からどうしたの?何か悪い物でも食べた?あはははっ!」 どうやら、団長様は真面目に答える気などさらさらない様子である。 「んー悩みねーまあ、ないこともないわよっ!!」 おや?一応答えてくれるみたいである。しかし万遍無く浮かべている笑みから察すると、 やはり真面目には答えてくれないらしい。しかも、展開が大体予想できた。 「悩みの種はね…あんたよあんた!テストは赤点スレスレだし今日は遅刻しそうになるわで、 ヒヤヒヤもんもいいとこよ!あんたはもう少しSOS団の団員なんだっていう自覚を持ちなさい! 団長に泥を塗るマネなんて許さないんだからね!」 楽しそうに俺を断罪するハルヒさん。うむ、やはり予想通りだった。相変わらず、俺に言い放題なのであった。 「まあそれは半分冗談としてさ、朝からそんなこと聞くなんて一体どうしたのよ?」 さて…どうしようか。変にはぐらかすと直感が鋭いハルヒのことだ、 ややこしいことになる可能性大。ゆえに、ここは素直に答えておくとしよう。 「いや、お前が俺に助けを求めてる夢を最近見ちまってな。ちょっと気がかりになって聞いてみたってところだぜ。」 「…何それ、気持ち悪い夢ね…。」 同意しておこう。現実的に考えて、お前が俺に助けを求めるなんてことまずありえんからな。 「もしかしてあんた、あたしに従順にさせたいって欲望でもあるんじゃないでしょうね??」 気持ち悪いって、そっちのほうかよ! 「助けを請うってのはつまりその裏返しだし、夢ってのは密かに思ってるようなことが 反映されたりするもんだし…あたしに何か変なことでも考えてたら承知しないわよ!?」 いやいや、そりゃ考えが飛躍しすぎだろう…ってか願望が夢で具現化なんて、一昨日、昨日の 夢見りゃ絶対ありえんことを、俺は知っている。何が楽しくて家族が死ぬことや地球の滅亡を 望まにゃならんのか…まあ、さすがにこういう夢の内容までハルヒに話そうとは思わないけどな。 …そんなこんなで時は昼休み。俺は谷口&国木田と席を囲って弁当を食っていた。 ハルヒは相変わらず学食のようだ。 「ところで国木田、昨日休んでいたようだが体のほうは大丈夫か?」 「ん?ああ、おかげ様で。」 「さてはお前、勉強のしすぎで熱でも起こしたか?」 谷口が横から言葉をはさむ。 「だったらまだよかったんだけどね…単なる風邪だよ、ほら、もうすぐ12月だってこともあって 冷えてきたじゃない?そのせいかな。二人は風邪ひかないよう気をつけてね。」 「おーおー、まあそのへんは大丈夫だぜ。特にキョンはな。バカは風邪ひかないって言うだろ?ははは!」 谷口よ、どの口がそれを言うんだ…確かに俺は成績も下の中くらいでバカかもしれない。 が、お前はお前で俺より成績悪かった記憶があるんだがなぁ…気のせいか? 「それを言うなら谷口もバカだから風邪ひくことないね。いや~二人とも羨ましいよ。」 おお、俺が言わんとしていたことを代わりに国木田が言ってのけてやったぞ。 が、しかし、最後の一言は残念だ国木田…お前も俺のことバカだと思ってたんだな…。 「でもよ~そうそう例年通り寒くなるわけでもないみたいだぜ? 今朝の天気予報見てたら、来週の中頃は夏みたいな気温になるとかなんとか。」 「…谷口が天気予報を見るなんて珍しいな。」 「うるせーよキョン、俺だってそんくらい見るぜ。」 「どうせ朝食ついでに適当にTVのリモコンいらってたら偶然映ったってところなんでしょ?」 「国木田…お前鋭いな…。」 鋭いも何も、普段のお前の性格や言動を考えりゃ当然の帰結だとは思うがな。 しかし、夏みたいな気温か…そういや夢の中でも確かあのとき暑かった記憶が… …… 「キョン、大丈夫?顔真っ青だけど。」 「おいおい、バカは風邪ひかないって言った手前にこれかよ。」 気付かないうちに、俺は随分と陰鬱そうな顔になってたらしい。 「あー、いや、何でもないぜ。ちょっと寒気がしただけだ。」 「まさか風邪にでもかかったのかよ?」 「じゃあもうバカは谷口一人になっちゃったね。」 「国木田てめーッ!!」 お前らのコントを眺めてたら、あの悪夢が少しでも薄れたぜ。感謝するぞ谷口、国木田。 あんな未来…俺は絶対信じねーぞ…。 操行している間に放課後。またいつものごとく部室へと向かう俺。 「お、長門、お前だけか。」 「そう。」 俺が定着席に座ると、何かのCD-ROMをもってこっちにやってくる長門。 「これがSinger Song Writer…軽音楽部から借りてきた作曲用ソフト。 パソコンにインストールすれば即行使える。そして、これが説明書。」 「ん?ああ、これが昨日古泉が言ってたやつか!サンキュー、長門!」 早速パソコンを立ち上げてインストールする俺。 …部室に、団員それぞれにパソコンが宛てがわれていることには深く感謝せねばなるまい。 これもハルヒがコンピ研から強奪だの従属命令などといった暴虐の限りを尽くしたおかげか。 コンピ研の皆さんにはもはや乙としか言いようがない…ありがたく、今日もパソコンを使わせていただきますよ。 インストールが完了したあたりで古泉と朝比奈さんが部屋へと入ってきた。 と、よく見たら二人とも楽器を担いでいるではないか。おそらく昨日言っていたように 軽音楽部から借りたものなのだろう。来るのが遅かったのはこのせいだったんだな。 「って、大丈夫か古泉?」 「いえいえ、これくらいどうってことないですよ。」 キーボード1台のみの朝比奈さんはともかく、 古泉はあろうこともギター2台に加え、ベース1台の計3つも担いでいるではないか。 「わ、私古泉君を手伝おうと思ったんですけど…。」 「朝比奈さんはキーボードだけで十分すぎるくらいですよ。僕は好きでこれらを担いでいるんですから。」 相変わらずのさわやかフェイスで涼しく答える古泉。なるほど、女の子に負担を負わせたくないというヤツらしい ジェントルマン精神だが、俺がお前の立場でも間違いなくそうしていたであろう。何しろ朝比奈さんだからな。 「そうだ、良い機会だ。古泉よ、ベースの弾き方俺に教えてくれないか?」 「お安い御用ですよ。では早速始めてみるとしましょう。」 「じゃあ私もキーボードのいろんな機能を確認しとくとしまーす♪」 「私も…ギターをいらっておく。」 「長門はギター弾けるから別にその必要もないんじゃないか?」 「単純にギターに興味がある…ただそれだけ。」 長門に読書以外に関心のもてるものが現れるとはな…。文化祭にて、突発でいきなりギター引っ提げて ステージ上にハルヒたちが現れたときは何事かと思ったが、今ではそのことがこうやってSOS団みんなで バンドを楽しんだり長門の人間的嗜好の開拓といったことに繋がってる…こればかりはハルヒには 感謝しないといけねーかもな。あのときのハルヒの飛び入り参加は、長い目で見れば英断だったわけだ。 「なるほど、左から右へ1フレットずつ移るにつれて音が半音ずつ上がっていくのか。」 「その通りです。ちなみに手前の太い4弦から順に開放弦の状態だと E、A、D、Gの音が鳴りますよ。ミ、ラ、レ、ソのことですね。」 「開放弦ってのはどういう意味だ?」 「左手で何も弦を押さえずに弾く状態のことですよ。」 「おー、了解したぜ。」 「慣れたらTAB譜を見て弾くのもいかがでしょうか。 そっちのほうが、フレット番号が明記されていて弾くのには楽だと思いますよ。」 「TAB譜って何だ?」 「それはですね…」 ピン! ん?何だ??長門のほうから何やら音が聞こえたぞ。 「どうしたんだ長門?」 「ギターにチョーキングをかけていたら弦が切れた。ただそれだけの話。」 …その弦、まだ新しいやつじゃなかったか?一体どんなチョーキングをかけてたんだ長門?? 「おやおや、しかもこれは一番細い1弦ですね。これでは切れてしまっても仕方ありません。」 「やりすぎた。次からは自重する。」 …仕方ない…のか? まあ、しかし そんな長門が楽しそうに見えるのは 決して気のせいではないはずだ。良い趣味を見つけられてよかったな長門。 「な、長門さ~ん、助けてくださ~い!」 「何かあったの?」 「いくら鍵盤押してもキーボードから音が出ないんです…電源は入ってるはずなのにどうしてなんでしょうか?」 「これはシンセサイザーの部類。よって単体では鳴らない。 シールドでアンプに繋いで初めて、アンプから音が鳴る仕組みになっている。」 「あ、これアンプからじゃないと音出ないんですね…勉強になりました!ピアノから入った私には そういうの疎くて…あ、でも今ここにはキーボのアンプがないです…今日はあきらめるしかないみたいですね…。」 「その必要もない。そこにあるベースアンプでも代用は可能。」 「本当ですか!?ありがとうございます長門さん!」 「礼ならいい。」 「キョン君、ベースのアンプ貸してください!お願いします!」 「どうぞどうぞ、使っていただいて結構ですよ。今日はベースの基本技術を学ぶだけでアンプは使いませんからね。 そんな感じで、俺たちは有意義な会話をしていた。いつもは古泉とボードゲームだのカードゲームだので 時間を費やしていた俺であったが…こういう時間もなかなか楽しいじゃないか。一昨日、昨日の悪夢のことを 一時的にでも忘れられるという意味でも、尚更貴重な時間である。特に、昼休みに谷口から例の天気予報の話を 聞いてからというもの、放課後までずっとそれを引きずっていた俺には…な。もちろん、今でもそんな未来は 信じちゃいないさ。ただ、一つでもそういった判断材料があると不安になる…それが人間というものであろう。 本来なら放課後にでもこれら夢の一部始終について長門や古泉に相談しようと思ってはいたのだが、 正直今のこの談笑している空気を壊したくはなかったし、何よりハルヒ本人が部室に顕在だから話せなかった ってのが一番の理由だな。本人の目の前で能力云々語るのは言わずもがな、禁句である。 …いや、待て。 今気がついた。そういえば、ハルヒはいまだ部室には来ていないではないか。 いつものあいつなら…とっくに来ていてもおかしくないはずだが。 「おや、どうされたんです。涼宮さんのことが気がかりですか?」 「いや、気がかりってわけでもないんだが…やけに来るのが遅いなと思ってな。」 「掃除当番にでもなってるんじゃないですか?」 良い指摘ですね朝比奈さん。が、それにしても遅いような気がしますが…。 「!」 突然立ち上がる長門。 「涼宮ハルヒが…倒れた。」 …俺はベッドで横たわっているハルヒを見つめていた。 「先生、ハルヒの具合はどうなんです!?」 「大丈夫、大事には至ってないわ。おそらく軽い貧血ね。」 「そう…ですか。」 「今日のところは安静にしておけば大丈夫よ。幸い明日は土曜日だから、 それでも気分が治らないようなら、病院に行って診てもらえばいいと思うわ。」 事なきを得たようで、ひとまず俺は安堵の表情を浮かべた。 ------------------------------------------------------------------------------ 「倒れたって…どういうことだ長門!?」 「涼宮ハルヒの表層意識が、たった今消滅した。」 …??意識が消滅?何を言っているんだ?? 「原因は不明。今それを解析中。」 「長門さん!涼宮さんは今どこにいるんですか!?」 「旧校舎の玄関口からすぐ入ったところの廊下。おそらく部室へ向かう途中に倒れたものだとみえる。」 「キョン君、何をボサっとしてるんですか!?早くそこへ行ってあげてください!!」 突然の事態に状況が把握できずうろたえていたのであろう俺に、怒鳴りつける古泉と朝比奈さん。 「お…おう…!お前らはどうすんだ!?」 「長門さんが解析に手間暇かけている時点でこれは非常事態に他なりませんよ。 身体機能における単なる物理的損傷ではない…そういうことですよね長門さん??」 「そう。」 「であるからして、我々は我々でできることをします。原因の調査および機関への連絡その他をね。」 「今、涼宮さんの隣にはキョン君がいてあげるべきです!」 考えるよりも先に体が動いたのか、気付くと俺は廊下へと跳び出していた。 もちろん、ハルヒのもとへとかけつけるために。 正直、いまだに俺は混乱していた。そりゃそうだろう?ついさっきまでいつものごとく ピンピンしていたハルヒが…意識を失う?倒れる?一体何をどうしたらそんな展開になるってんだ?? 説明できるやつがいるなら今すぐ俺の所に来い。 しかし、自分にだって今すべきことはわかってる。この際、原因などどうでもいい… ただ一つ言えることは、一刻も早くハルヒの容態を確かめ、そして救ってやることである。 …… ハルヒを見つけるのにそう時間はかからなかった。案の定、長門の指定位置にて ハルヒはぐったりとした様子で壁に背を向けた状態でもたれかかっていた。 とりあえず最悪の事態は回避できたようだ。意識を失うタイミングにもよるが、頭から地面に激突した際には 最悪、脳震盪に陥る可能性だってある。しかし、このハルヒの体勢から察するに、どうやらハルヒは徐々に 薄れてゆく意識の中、反射的に頭だけは守ろうとしたのであろう…壁にもたれかかっているのがその証拠である。 例えば街中で運悪く出くわした不良に背負い投げでもされたとしよう。柔道に精通している者ならば、 とっさに受け身をとろうとするはずである。野球にてピッチャー返しをしようものなら、投手は瞬間の中で 球をキャッチしようとする動きに出るはずである。 今のハルヒにも同じことが当てはまる。スポーツ万能&運動神経抜群の涼宮ハルヒだからこそ、 成し得た芸当と言えるかもしれん。正直、俺がハルヒの立場だとどうなっていたかわからない。 ハルヒの顔に手を近付ける俺。どうやら息はしているようだ。俺の動作に一切の反応を見せないことから、 どうやら本当に意識を失ってしまっているようである。見方によっては眠っているようにも見えるが… とにかく、俺はハルヒを背負い、急いで保健室へと駆け込んだ。 ------------------------------------------------------------------------------ そして話の冒頭へと戻るわけである。 …しかし保健の先生には悪いが、俺にはハルヒの倒れた原因が単なる貧血には思えない。 元気のかたまりとも言えるハルヒに貧血など、不似合いにもほどがある。おそらく、それだけは 天地がひっくり返っても起こりえない事態のはずだ。何より、長門や古泉の尋常ではない焦りから判断しても、 単なる生理現象でないことだけは確かだろう。とにかく一刻も早いハルヒの回復を…俺は待ち望んでいた。 「……ん…」 …意識を取り戻したようである。 「…ハルヒ?!大丈夫か??」 「あれ、キョン…何でこんなとこに?…ってか何であたし保健室にいるわけ…?」 「お前が旧校舎の廊下で倒れているところを、俺がここまで運んできてやったんだ。」 「うそ…?そういえば手や足に力が入らないわ…。倒れたってのは本当…みたいね。 無様な姿をあんたに見せちゃったわね…。」 「どうってことねーよ。お前が無事で何よりだ。」 「…とりあえず、運んだってのが本当なのなら、一応礼は言っとくわ。ありがと…しかし困ったわね。 家までどうやって帰ろうかしら…。」 「それについては心配およびませんよ。」 うお?!いつのまにか背後に長門に古泉、朝比奈さんが立っているではないか。 もう調査とやらを済ませてきたのであろうか。 「タクシーを呼んできてます。いつでも発進できる用意はできてますよ。」 もうそんな手配まで済ましていたのか…相変わらず対応が速くて助かるぜ古泉。 「古泉君ありがとう。みんなには迷惑かけちゃったわね…。」 「そんなことどうでもいいんですよう!涼宮さんが無事でいられただけでも私嬉しいです…。」 「みくるちゃん…心配してくれてありがと。でも、もうあたし平気だから!ほらこの通り!」 潔くベッドからとび降り、仁王立ちしてみせるハルヒ。っておい、いきなりそんなことして大丈夫かよ?? 「ハルヒ、お前が元気だってことはわかったから、とりあえず 今日は無理はするな?俺がタクシーのとこまで背負っていってやるからさ。」 「まあ、あんたがそこまで言うなら仕方ないけど。」 渋々俺の背中にもたれる団長様。 …… タクシーには俺とハルヒの二人が同乗した。本当は長門と古泉、朝比奈さんも 付き添いたかったらしいが、あいにくタクシーにはスペースというものが限られている。 一旦古泉たちとは別れ、俺はハルヒを家まで送っていくのであった。 「しかしお前が倒れたというからびっくりしたぞ俺は。一体何があったんだ?」 「それはあたしが知りたいくらいよ!気付いたら意識がとんでたんだし…。」 「最近何か無理でもしてたんじゃないか?そのせいで一気に疲れがドバーッときたとか。」 「特に、何か無理をした覚えもないわ。」 「じゃあ精神的なものか?ストレスとかさ。」 「何に対してのよ?」 「いや…俺に聞かれてもな…。」 結局そんなこんなではっきりとした原因はつかめないまま、俺たちはハルヒ宅へと着いた。 「今日はゆっくり休めよな。なんせ明日は土曜だ。昼まで寝てたっていいんだぜ?」 「あんたねえ…あたしをバカにしてんの?ま、いいわ。とりあえず、今日はどーも。」 団長様が一日に二度も俺に礼を言うなんて、珍しいこともあるもんだな。 ハルヒと別れを済ませたあたりで、ちょうど携帯から着信音が鳴る。古泉からだ。 「もしもし、俺だ。」 「古泉です。涼宮さんは無事家まで戻られましたか?」 「おお、そりゃ元気な様子でな。」 「それはよかったです。ところで、涼宮さんが今日突如として昏睡状態に陥った原因についてなんですが…。」 息をのむ俺。 「長門さんとも話したんですが…正直に申し上げましょう。これは一言二言で伝えられる代物ではありません。」 …どうやら予想以上に深い事情がありそうな様子である。 「明日何か用事はあったりしますか?」 「用事?特にないぞ。」 「それは助かります。突然ですが…今日の夜11時に駅前近くのファミレスに来てほしいと言われたらどうします?」 「つまり、朝まで長話できそうなとこに集まろうってことだろ?全然構わないぜ。」 「ご明察です。それに加え、こういった場所だと食事も好きなときに注文できたりしますから、 聞き疲れを起こしたりしたときに、何かと都合がいいかと思いまして。」 なるほど…どうやら相当長い話になりそうである。それにしても食事か。なかなか用意周到じゃないか。 「だがな、なぜ11時なんだ?今6時だし、8時集合にしたっていいようなもんだが。」 「確かにその通りですね。しかし、もう少しだけ我々に時間をくれませんか? まだ原因の全てを把握できたわけではないのですよ。」 何、そうなのか。 「いえ、今のは表現が適切ではないですね。あくまでこれは僕自身の問題です。」 ?どういうことだ? 「今回の原因について、僕はかつてないほどの膨大な情報の処理や解釈に追われ… 弱音を吐こうなどとは思ってはいないのですが…正直、今僕はパニックに陥っている と言っても差支えないかもしれません。それほどまでに窮した事態なんですよ…。」 「な、何だ??その原因とやらがそこまで震撼させるような内容だったってのか??」 あの古泉が壊れかかってるんだ、おそらく話とやらは想像を絶するレベルなんだろう。 それを改めて認識したせいか、しだいに話を聞くのが怖くなってきた自分がいる。 「ですからその処理および解釈にもう少し時間がかかるということです。 そのへんはどうか、ご察しのほどをお願いします…。しかしですね、僕はこれに立ち向かいます。 立ち向かわずしてどうやって涼宮さんを救えますか。」 そうだ…これに目を背けたら、ハルヒは一体どうなるんだ?今日はあの程度で済んだが、もしかしたら次は こうはいかない可能性だってある。最悪の事態も考えられる。なら、俺も覚悟して立ち向かおうじゃないか。 それがハルヒを助けることに繋がるのならば…俺はそのための努力を惜しまない。 「長門さんと朝比奈さんにも連絡はつけています。では、夜11時にまた会うといたしましょう。」 「おう、またな。」 …まだ集合の時刻まで時間はある。 それまで家で仮眠でもとっておくとするか。話とやらは朝までかかるのだろうし。 …… 家に着いた俺は、とりあえず晩飯を食い、部屋に向かった後ベッドに横になった。タイマーは…念のために 10時半にセットしておく。寝過ごしたりでもしてしまうようなら、それこそ打ち首にされてもおかしくない。 そう例えられるくらい、今後を左右する重要な会議になるはずだ。 「少し眠るだけ…だ。さすがにまたあんな夢は見ねえよな…?」 内心不安だったが、しかしこればかりは気にしてもどうしようもない。 とりあえず、俺は目を閉じ、寝ることに専念した。 音が鳴っている… 俺はアラームを消した。 10時半…どうやらちゃんと起きられたようである。まだ少し眠たいが、そんなことを言ってる場合ではない。 さて、親に何と言うかだが…『友達の家で寝泊まりする』とでも言っとけば、まあOKだろう。 俺はコートを手に取り、部屋から出ようとした。そのときだった。 「ようやくお目覚めってわけだ。」 ふと背後から声が聞こえた。はて、これは幻聴か何かであろうか?当たり前だが、この時間帯俺の部屋には 俺一人しかいない。妹が勝手に部屋に侵入した?それはない。なぜならその声は男のものだったからだ。 しかもどこかで聞き覚えがある… 俺は後ろを振り返った。 「てめえは…!」 予想外の人物に俺は驚愕した。いや、俺が忘れていただけで、こいつと再び会うことは 必然だったのかもしれない。とっさに拳に力が入り、臨戦態勢に入る俺。 「おいおい、そんなに身構えなくったっていいだろう。別に僕は、あんたに危害を加えようなどとは思っちゃいない。」 どの口がそれを言うんだ。俺はお前らのしでかしたことを忘れたわけじゃねえぞ。 「誘拐の件についてはすでに謝っただろう?…まあ、それはいい。 今日は言いたいことがあってここに来た。」 朝比奈さん大の言葉を思い出す俺… 『藤原くん達の勢力には気を付けてください。』 …藤原…てめえ、一体何企んでやがる? 「差し金は誰だ?何の目的でココに来た??」 「…勘違いしてないか。確かに、この時代への時間移動命令については上からの指示だが、 あんたに会いにきたことに関しては、単なる僕の独断だ。」 「独断だと?そこまでしてお前は俺に何か言いたいってわけか。が、生憎様だな。どうせ俺に巧みな言葉をかけて 騙そうって魂胆なんだろうが、そうはいかねえ。朝比奈さんから、すでにそれに関しては忠告を受けてある。」 「何、朝比奈だと!?」 しまった、つい朝比奈さんの名前を出してしまった…まあ、もともと朝比奈さん大は藤原たちの勢力とは 敵対関係だったから、これも今更か。別に危惧するような情報流失でもない…と、とりあえず俺は信じたい。 「まさか…昨日の異空間からの転移は…ふ、まさか現行世界に直々干渉してくるとは。」 「おい、何ぶつぶつ言ってんだ?」 「いや、とりあえずあんたの話を聞いて理解はした。おそらく、僕が伝える予定内容を聞かせたところで、 あんたはそれに従わないであろうことにはな。やはり、僕らだけで何とかする問題だったか。」 「聞くだけ聞いてやる。一体何を伝えるつもりだったんだ?」 「『朝比奈みくるには気をつけろ』端折って言うならそういうこった。」 「なるほど、どうやら聞くだけ損したみたいだ。お引き取り願おうか。」 「まあ、はなからあんたは宛てにしちゃいないさ…さて、面倒なことになる前に撤収するとしようか。 九曜、もういいぞ。ここの時間軸を正常に…加えて、今の会話記録もこいつの記憶から抹消してやれ。」 「---了解した-------」 !?九曜だと??あいつもいたのか!!? その瞬間だったろうか 俺の意識はブラックアウトした
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第五章 ハルヒは放心状態、長門は朝倉と交戦中、朝比奈さんはハルヒの横で気絶している、古泉は神人と交戦中、俺にいたってはハルヒのいる病院の中で立ち尽くしてい。 不運と言うものは続くもので、ボロボロに破壊されたドアから人影が見えた。 見覚えのあるおとなしそうな生徒会書記担当、黄緑江美里だ。しかもその手には血のついた日本刀…え?日本刀? 今度は黄緑さんがエラーか?しかも血がついてるってことは誰かを殺したてきたと言うことなのだろうか。 長門は朝倉と交戦中である、よって黄緑さんに抵抗できる人間はいない、ここにいるのは俺とハルヒと朝比奈さんだけなのだ。 ここまでかと思ったそのとき、またドアの奥から人影が見えたと思った瞬間である、人影がすごいスピードで黄緑さんに近づき持っていた薙刀で黄緑さんの体を真っ二つにした、そしてポケットからビンを取り出し中に入っていた液体を真っ二つになった黄緑さんにかけた、すると黄緑さんは塩をかけられたナメクジの様に縮み消滅した。 そして黄緑さんを切り殺した人物に俺はとてもびっくりした。 なんと久々の朝比奈さん(大)である。俺はハルヒや朝比奈さん(小)の前に現れていいのかという疑問の前に朝比奈さんの身体能力に驚いていた。 アホみたいに口をあけている俺に朝比奈さんは「久しぶり。」と、そしてハルヒに向かって「久しぶりです、でもこの姿では始めましてですね。」 そして朝比奈さんは説明してくれた。「黄緑さんは情報統制念体によってコピーされました、そしてそのコピーはオリジナルを抹殺しあなた達を抹殺しに来ました、それを止めるために来たんです、他にも目的はあったのですが。本当はこういうことをしてはいけないんですが私にとっても規定事項なので大丈夫です。」 朝比奈さん(大)が説明を終えた後、ハルヒが突っ込んだ「あんた、誰なの?みくるちゃんのお姉ちゃんか何か?この姿って…」 その質問には俺が答えた「この人はここにいる朝比奈さんの未来の姿だ、何度か会った事がある。」 そして朝比奈さん。「そうです、なんなら今までにしたコスプレ全部言いましょうか?」と笑顔で言った。 そして真剣な顔をして続けた。「私がここに来たのは黄緑さんからあなた達を守るためだけではありません、もう一つ重要な仕事があるんです、でもその前にキョン君、涼宮さんにあなたの正体を教えてあげて下さい。」 「キョンの正体?」とハルヒがいいこちらを見る。 俺は言った。「そういえば言おうとして朝倉が来たんだったな。いいかハルヒ、よく聞け?俺の正体はな…」ジョンスミスなんだ、と言うつもりだった。 「そいつの正体はジョンスミスさ。」とまたドアの奥から人影が現れる。またも見覚えがあるやつだった、しかもいけ好かない未来人、花壇で会った奴だ。 なんでこの事を知っている?そんなことを考えているとハルヒが「キョンがジョンスミス…?本当なの?キョン」 「そうだ、俺は確かに4年前の七夕の日にハルヒに会って落書きの手伝いをしたジョンスミスだ。だが何でお前が知っている。」恐らくこのときの俺はきっとものすごい顔で睨んでいたのだろう。 しかし煽るようにそのいけ好かない未来人は言った。 「何故知っているかって?それは俺がジョンスミスだからさ。」 朝比奈さん(大)以外の顔が凍りついた。 こいつがジョンスミス?そりゃ俺だろう、こいつがジョンスミスなわけがない。それともジョンスミスって結構多い名前なのか? 昔の船長にそんな名前の奴がいたっけ? などと脳内で思考を巡らせていると、 朝比奈さんがまじめな顔でこう言った。 「キョン君、この人は未来のあなたなんです。それは間違いありません。そしてこの人の目的は…」 いけ好かない未来人が割って入った、しかもまたとんでもないことを言い出した、俺はその言葉にこいつがジョンスミス…つまり俺なのだということ以上にショックを受けた。 「涼宮ハルヒと朝比奈みくるの暗殺だ。もちろん過去の自分であるお前は殺さない、俺が存在できなくなるからな。」 なんだって?未来の俺が朝比奈さんやハルヒを殺す?一体全体何があったら俺はそんなことをするような人間になるんだ? 大体、朝比奈さんやハルヒを狙っていることを知っているはずの朝比奈さん(大)は何故何もしないんだろうかという疑問を朝比奈さん(大)に向かって視線に込めて送ってみた。 すると朝比奈さんは「まだ大丈夫です。」とだけ言った、まだ? そしてその未来人は続けた。 「俺の来た未来では朝比奈みくる、長門有希、古泉一樹、涼宮ハルヒはとっくに死んだ人間になっている。 涼宮ハルヒ、朝比奈みくるは俺に殺され、古泉は神人に敗れ、長門有希は朝倉に殺された。 そういうことになっている。しかしこいつらを殺すのは長門有希、古泉一樹が敗れた後、俺も難しいことはわからないがその両名が敗れたショックでハルヒが完全に能力を失うらしい、恐らく自分の能力で友達が傷ついたことで自ら能力を消したんだろう。 そしてそんな能力を持った涼宮ハルヒを殺し、まあ口封じっって奴だ、そして朝比奈みくるからTPDDを奪い殺し、ほんのちょっと未来のお前に渡してやるんだ。それで万事解決だ。」 いやいやいやこれはないって、絶対ないよ。何で朝比奈さんまじめな顔してんの?こいつおもしろいこといってんだから笑ってあげなよ。 などと考えていたらやっぱり朝比奈さんが「全部本当です。」 …やれやれ。 そしてその未来人は喜んでいいのか泣いたらいいのかわからんことを言った。 「そこでだ。当然朝比奈みくるのふけたほうがここにいるってことは当然勝ち目もあるってことだ。なぜか2つの異なった未来が繋がってしまったらしいからな、それも涼宮ハルヒの影響か?それに全部規定事項って奴ですか?朝比奈みくる。まあどうなるかはお前しだいって奴だな。まあがんばれよ」 朝比奈さんによると全部事実で間違いなさそうだ。 奴の言うと通り、俺達が勝つ道もあるみたいだしな。 って言うことはやっぱり長門、古泉を何とかしないとだめみたいだ。 長門、古泉両名が死ぬまでこいつはハルヒや朝比奈さんみたいに手をだぜないみたいだし。 長門は何とかなるとして、まず古泉を何とかしてやろう。 第六章
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ハルヒの2回目の世界改変、それは全ての終わりを意味していた。でもまぁ俺にとっちゃあどうって事も無いんだが。 宇宙人、未来人、超能力者。ハルヒが願い、集めた奴等。 ある日、俺は団活をして普通に帰った。別に、普通に古泉とチェスをしただけだがな。帰り道俺はふと思い出した。長門がカミングアウトした次の日に、朝倉が俺を殺そうとしたこと、それを長門が命を懸けて阻止してくれたこと。俺は長門に頼り過ぎている。分かりきった事なのだがほとんどの事件を長門の力が解決しているような気がする。そんなことを考えている内に後数十メートルで家に着く距離まで来ていた。 俺の目は信じられない物を見た。目の前の少し離れたところに“朝倉”が居た。今まで気付かないのがおかしい。 「あっ!」 俺は声を出してしまった。だが、こちらに気が着いていない様だ。このまま立っていれば見つけられ、何かのアクションを起こすだろう。逃げなければ。すぐさま反対方向へと駆け出し、回り道をして家に帰った。不思議な事に、家に着くまで朝倉は追って来なかったし、おかしな事にもなっていない。 「明日長門に聞いてみよう。って何も反省できてないじゃないか、俺!」 いつあいつが来るのか脅えながらも俺は数時間を過ごした。寝る前に気付いたのだが、あいつは俺の記憶が読めているのだろか。長門によれば数十メートル程の近い距離ならば有機生命体の記憶をいつも感じ取れるって言ってたが、それならば俺が朝倉に気付く前にあいつは何かする筈だが、何も無かった。何なんだ。俺に興味が無くなったのならそれで良いが、宇宙人、いやTFEI端末というべきか、まぁそのTFEI端末についての記憶があるのならすぐさま記憶操作をする筈・・・考えれば考えるほど矛盾してくる。もう考えるのをやめよう。明日にゃあ明日の風が吹く~ってな。